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2023.01.11

CES 2023で日本スタートアップの存在感を増した理由

米国・ラスベガスで開催されたCESは、50年以上の歴史を持つ世界最大のテックイベントだ。ここを見れば数年先の未来がわかるというほど影響力があると常に注目が集まるイベントだが、コロナ禍が本格的に広がる2020年は開催されたものの、2021年はオンライン開催に。翌2022年はオンラインとリアルのハイブリッド開催になったものの、出展を断念した企業も多く、本格復帰には遠い状態だったようだ。

2023年、CESがようやく本来の姿になって戻ってきた。リアルイベントを中心に、デジタルベニュー(オンライン会場)も用意され、世界各国から参加者がラスベガスの会場に集まった。とはいえ、中国から米国への入国は規制がかかっており、出展者も参加者も中国勢は少ない。一方、円安にもかかわらず、日本からの参加者は増加しており、旅行代理店を中心としたツアーも複数組まれていたようだ。

各国のスタートアップが集まるエウレカパーク

CESはラスベガスの北と南に伸びるストリップストリート内に設けられた「Tech East」「Tech West」「Tech South」の3エリアで開催された。

最も規模が大きいのがラスベガス・コンベンション・センター(LVCC)を要するTech Eastだ。SonyやPanasonic、LGやSAMSUNGなどの大手企業の展示が集まっており、日本メディアで取り上げられる企業のほとんどはここにあるといってもいい。続いて大きいのがTech Westで、5つのホテル内のホールとコンベンションセンターで構成されている。このTech Westのベネチアン・エキスボの1Fにあるのがスタートアップが集まる「エウレカパーク」だ。

ブースを構えるにはCESを開催するCTA(Consumer Technology Association)が定めた基準をクリアする必要があり、対象となるスタートアップは2回しか出展することができない。ブースも小さく、会議テーブル1つ程度のスペースしか割り当てられないが、まだどこにも発表されていなかったり、満を持して今年リリース予定となっているサービスや機器のプロトタイプが展示されるエウレカパークはCESで最も未来への希望、期待が溢れ、熱気に満ちているエリアだ。

そんなエウレカパークでも注目が集まるのは、各国のスタートアップが集まるカントリーパビリオンだ。2023年もイスラエル、オランダ、韓国、台湾、イタリア、スイスなど数多くのパビリオンがあり、中でもフランス「Le French Tech」の存在感は大きく、ここをお手本にしている他国のパビリオンも多いようだ。

筆者は8年前からCESの取材をしており、2023年は久々の現地取材だったが、今回強く感じたことがある。それは、日本のスタートアップの盛り上がりだ。メディア向けイベントの初日から、ブースに立つ参加者たちのアグレッシブさ、積極的にコミュニケーションをとっていく姿勢、海外メディアへの発信力の高まりを感じた。


視察する西村康稔経済産業大臣

日本には「JAPAN TECH」とJETRO(ジェトロ、日本貿易振興機構)が管轄する「J-Startup」の2つのパビリオンがある。後者のJ-Startupは、2018年に民間支援機関、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)、JETRO、経済産業省により開始したスタートアップの支援プラットフォームだ。CES開催3日目となる米国時間1月8日には、西村康稔経済産業大臣も訪れ、ブースを1つ1つの視察した。

J-Startupがスタートアップのグローバル進出を支援

JETROのスタートアップ支援課長島田英樹氏に、2023年のCES、そしてJ-Startupなどについて話を聞くことができた。

──J-Startupの参加企業はどのように選出するのですか。

まずJETROが審査を行い、CESを主催するCTAによる2次審査を経て、出展企業が決まります。出展料は無料で、渡航費と宿泊費、経費のみで参加できる仕組みになっています。

──日本のスタートアップにはどのような課題がありますか? それに対するJETROのビジョンは?

さまざまな課題があると思いますが、その1つが海外に目を向けるスタートアップが少ないということです。とはいえ、過去5年間、CESに連続出展したことでJETROの活動が浸透してきたのか、参加を希望するスタートアップは増加傾向にあります。CESに対する認知度の高まりと現岸田政権の「スタートアップに力を入れよう」という方針も功を奏しているかもしれません。

CESのようなイベントは、グローバル化へのギャップを埋める1つの要素になるので、海外に出て視野を広げてる助けになれればと、これからも支援を続けていきたいと考えています。

──2023年は、これまで以上に日本のスタートアップの発信力があるようですね。

我々も5年間でノウハウがたまりました。そのため現在は、出展場所の用意だけでなく、年間を通じたサポートも行っています。例えばピッチコンテストに出るためのサポート、実際に「こう聞かれたらどう答えるか」など、ブースでの具体的なシミュレーションを講座やマンツーマンで行っています。

──CESに参加した後、海外との取引が始まったといった具体的な事例はありますか。

現地法人の設立、研究開発の設立、海外企業との取引開始の成功例が出ています。イベントはあくまでもスタート地点。JETROではその先の支援も行うことで、本格的な海外進出を後押ししています。

──J-Startupに参加したいというスタートアップは、どのようなアプローチが必要でしょうか。

JETROは各都道府県や世界中に70以上の事務所があります。CESでのサポートは、あくまでも提供する支援ツールの1つでしかありません。どんなかたちでも良いので、私たちに相談してほしいですね。


JETROのスタートアップ支援課長島田英樹氏

水素を利用するエンジンやアシストスーツ

今回、CESに出展したいた日本のスタートアップの中から特に注目が集まった4社をご紹介しよう。

ICOMA「TATAMERU BIKE(タタメルバイク)」



「タタメルバイク」はおもちゃメーカー出身のCEO生駒タカミツ氏が開発したコンパクトに変形する電動バイク。住居に駐輪場がない、ワンルーム住まいでも部屋に持ち込める利便性と、ポップで親近感のあるデザイン魅力で、ポータブル電源としても活用できる。側面パネルはカスタマイズ可能で、今後はデジタルサイネージ利用にも期待が持てる。CESへの出展は初めて。

PALE BLUE



2020年に創業した東大発のスペーステックで、水を推進剤として用いた人工衛星用のエンジンを開発。共同創業者兼代表取締の浅川純氏は「従来、有毒な物質や手に入りにくいガスが利用されているが、今後の安全性への懸念と供給コストの肥大化を予測、解決のため水を利用しようと思い立った」という。将来的には月や火星で採れた水を再び推進剤として使うことを目標としている。

Diver-X「Contact Glove」



VR空間内でモノに触った感覚を再現できる、グローブ型のコントローラー。VR内での正確なトラッキングと触覚の両方を搭載し、ゲームなどにも利用できる手軽さが魅力。モノに触れた感覚だけでなく、魔法や炎を持っている感覚も再現できる。CEOは弱冠20歳の迫田大翔氏で、孫正義育英財団4期生。

アルケリス「アルケリス」



下半身の3カ所を補強し、体重をすねとももで支えることで長時間の立ち仕事を楽にするアシストスーツ。装着も簡単で、フリーモードで自由に歩き回ることもできる。「手術の際に立っているのがつらい」という医師のために開発され、後に工場、美容師、警備員などさまざまな現場で導入された。CESへの出展は2回目。開発者の藤澤秀行氏は「初参加の後、米国の自動車部品の工場から引き合いがありビジネスに繋がった。今後は更なるグローバル化を推進したい」と語った。

メタバース、自動運転技術も人気

一方、大手日本企業の発表も注目を集めている。ソニー・ホンダモビリティによる自動運転車ブランド「AFEELA」の発表は、世界中のメディアが詰めかけて話題に。

Panasonic内にブースを構えるShiftallは「メタバースで生活する人達」の利便性を上げるアイテムを発表。通常のVR用コントローラーは操作時に握る必要があり、それだと缶を掴む(飲む)、楽器を弾く、キーボードを打つなどの操作ができない。とはいえコントローラーを手から外すとトラッキングが現実の手の形と乖離してしまう。それを解消するため、作られたのがコントローラーを一時的に手の甲に挙げられるよう工夫した「FlipVR」だ。今回主催者のCTAは、メタバースでモノがつながる「メタバース・オブ・シングス(MoT)」を提起。メタバースに対する注目度が高まる中、リアルなユーザーの声を踏まえた製品が日本から発表され、注目されるのは喜ばしいことだろう。

「昨年はハイブリット開催となりコロナ禍で参加者は少なかった。今回は3年ぶりの本格的な開催です。参加者も出展者も、これまで以上に期待感が高まり、大きな盛りアガリに繋がったのではないでしょうか」とJETRO・島田氏は語っている。

編集=安井克至

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