もちろん成果には「運、不運がある」と語っていました。成果を挙げられるかはわからないが「何より大事なことは、まずは人事を尽くすことだ」と言います。とにかく努力する。そして天命を待つのだと。
「もちろん準備も大切です。僕は、策を常に3つ用意し、次々と繰り出していました。また、自分のまわりに優秀な人が集まるよう努力しました。そのためには人間的な魅力が問われる。特に若い人ほど、権力や金では動きません」
北尾さんは厳しい上司だったそうですが、責任を押しつけることは絶対にしませんでした。部下をかばい、徹底的に守りました。
「事業法人部長時代、3つの部のなかで、僕は一度も負けたことがなかった。絶対に負けるはずがないと思っていました。それだけの人材と戦略が、僕にはあったからです」
天の啓示でソフトバンクへ
1995年、北尾さんはソフトバンクに転じます。最大の理由は、“天の啓示”。
「ある会合の後、孫正義社長から『1分だけ時間をいただけませんか』と声を掛けられたんです。『ぜひ来てほしい、そうすればソフトバンクは飛躍できる』と。僕は天の導きだと感じ、新しい道を歩むことに決めました」
孫さんは、後にこう語ったそうです。
「北やんは、ウチのために野村證券で修業をしてきてくれたようなものだ」
北尾さんは次のように言います。
「人というのは、生まれたときから、この世の何かから使命を与えられていると思っています。これが天命です。孔子は50歳で天命を知った。僕は幸いにも49歳で天命を自覚することができた。すべて与えられた天命に向かって起きていたことだったのではないかと感じた。
だから、どんな仕事も一生懸命にやらないといけない。どんな職場にいても、努力しないといけない。それが後の、大事な肥やしになるからです」
うまくいかないこともあるかもしれない。しかし、すべてを受け入れてみることが大事なのです。
「『人間万事塞翁が馬』という言葉がある。失敗が良い結果を後に生んでくれるかもしれないと考える。だから結果がダメでも、クヨクヨしない。ただし、そのままにはしない。何がいけなかったのかを考え、次につなげる。そして、天が自分にこんな機会を与えてくれたのだと、前向きにとらえてみる」
これこそが、人生で成功を収めるうえで、最も大事な考え方だと語っていました。
「『君子は義に喩り小人は利に喩る』という言葉もあります。正しく生きようとすること。そして人間性を磨くことです。そうすれば、他を利することにつながる。そして、いつかそれは自分に戻ってきます」
時間はかかり、すぐには報われないかもしれない。
「でも、あきらめないこと。努力し、継続し、反省し、挑戦し続ける。そうすれば、どこかで成功は必ず待っています」
誰にも必ず天命がある。その天命に向かって、いろいろなことが起きている。だから、どんな仕事も一生懸命やらないといけない。すべてが、未来につながっているからです。北尾さんからの学びです。