ファデルは、18世代に及ぶiPodと最初の3つのiPhoneの開発を監督した後の2010年にアップルを退職した。そのしばらく後に、アンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者のベン・ホロウィッツと、リビット・キャピタルの創業者ミッキー・マルカは、その当時まだ一部のオタクや犯罪者の遊び道具と認識されていたビットコインに目を向けるようファデルを説得したという。
ファデルはその後、暗号通貨をメインストリームに押し上げるための方法について考え始めたという。
「デジタルの世界では、ハードとソフトの革命が同時に起こる場合がある。それが、iPodが生まれた瞬間だった」と、ファデルは述べている。そして、それと同様の機会が2021年初頭、暗号通貨のウォレットのメーカーであるLedger社が、彼に新たなウォレットのデザインを依頼したときに訪れた。
Ledgerは12月にパリで開催されたOp3nカンファレンスで、「Ledger Stax」と呼ばれるウォレットを発表した。このウォレットは、プライベートパスワードで資産を完全にコントロールしながら、暗号通貨やNFTを管理することが可能で、大型のディスプレイで取引を確認できる。バッテリー寿命は、1回の充電で数週間から数カ月も持続し、ワイヤレス充電機能も搭載されている。
279ドルで発売されるLedger Staxのリリースのタイミングは、奇しくも絶好のものとなった。暗号通貨市場は、2021年秋から下落が続いてるが、2022年11月にはサム・バンクマンフリードのFTXが破産を申請し、暗号通貨のユーザーの間では、資産の保管を取引所に頼ることへの警戒心が高まった。
Ledgerの最高エクスペリエンス責任者で、以前はLVMHの最高デジタル責任者だったイアン・ロジャーズによると、FTXが破産を申請した11月の第2週は、同社の8年の歴史の中で最も売上が高い週になったという。
パリを拠点とする同社は、現在までに200カ国で500万台のデバイスを販売し、世界の暗号資産の20%の保全に貢献したという。Ledgerは2021年6月のシリーズCラウンドで、評価額15億ドル(約2000億円)で3億8000万ドルを調達していた。
新たなウォレットのLedger Stax によって、同社はセルフカストディのトレンドを後押しするだけでなく、この分野のカルチャーを変えようとしている。「デジタル資産に対する認識を変えるためには、セキュリティを高めるだけでなく、ユーザーにとって喜ばしいツールを提供していくことが重要だ」と、ファデルは語った。
(forbes.com 原文)