雇用の流動化と、たゆまぬスキルアップが必要になってきた。岸田政権の重要な経済政策として、人への投資やリスキリングがあげられているのも、このような認識からきている。
適材適所配置と新技術への対応の最大の障害は、日本の雇用制度、社員を企業に縛り付けるメカニズムだ。終身雇用も年功賃金も、企業が事業拡大を続けた高度成長期には合理性のある仕組みだった。
終身雇用を前提に、新卒から中堅までは、生産性よりも低い賃金を支払いつつ社内で通用するスキルを磨かせ、中堅から退職までは、生産性よりも高い賃金で若いころの貢献に報いる、しかも退職金もあり、という、生涯賃金の(一部)後払いシステムだったといえる。企業は成長、賃金はベースアップが繰り返されていたので、後払いは社員にとっても生涯賃金の自動的な引き上げにつながっていた。
高度成長期には合理的だったこの制度が、日本国内の企業の成長が期待できなくなった21世紀には、若手の社員にとっては大きな負担としてのしかかっている。
新卒の社員にとって、そもそも就職した企業が退職時まで、現在のようなかたちで存続しているかどうかわからない。いま低賃金に甘んじても、将来それを取り戻す時期が訪れるのかは不確実だ。社内には、どうみても会社への貢献も少ないのに高給をとっている「昭和のオジさん」も多数いる。
若手が新技術を身につけて責任のある仕事をしたくても「年功」不足で昇進・昇給させてくれない。志ある新卒は、将来性が不確実な業種の大企業を敬遠、外資系やベンチャー企業を選ぶようになってきた。終身雇用、年功昇進・昇給、退職金制度を維持する大企業(と官庁)は有能な若手人材の確保ができなくなり、低生産性、低賃金の悪循環が繰り返される。
では、この状況をどうしたら改善できるのだろうか。第一に、退職金制度を含む生涯賃金の後払いの仕組みを廃止することだ。経過措置は必要だが、最終的には、年功序列と退職金制度は廃止して、各人の貢献に応じて直ちに賃金・ボーナスを支払う制度に変えるべきである。新卒から中堅社員までの年齢層では賃金を直ちに生産性の貢献度まで大幅に引き上げるべきだ。
さらに、退職金に向けて企業が積み立てている(はずの)分もいま支払う。退職金には税制の優遇があるので、退職金制度を廃止して退職金を前払いするためには、前払い分への税制の優遇措置が盛り込まれるべきである。