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2023.01.06

廃棄漁網から、パタゴニアのダウンが生まれるまで

(左から)Bureo のStover氏、 パタゴニア のPomphrey氏、Bureo のAhern氏、豊田通商の高橋氏


パタゴニアの「ダウン・セーター」に関わるBureo、豊田通商の役割


豊田通商 高橋氏 : 豊田通商は20年ほど前からパタゴニアに対して日本国内で製造された生地を提供してきました。パタゴニアからは常に、特にアルパイン用の衣類やレインウェアなど、強度・機能性の高い製品に使用される生地を提供することを求められており、そのための素材を、主に日本の生地工場様と開発してまいりました。リサイクル素材を使用した素材開発という点に関しては、業界に先駆け10年以上前より取り組んでいます。ペットボトルからリサイクルしたポリエステル繊維の開発に始まり、今はリサイクルナイロンも含めた繊維全般の循環技術開発もしています。

当社は、会社としてサーキュラーエコノミーへ移行していくために何が出来るかという点を重要視しており、顧客に対して生地を提供するサプライヤーとしてだけではなく、顧客と共にサーキュラーエコノミーへの移行を支援・牽引していくパートナー、リーディングサーキュラ―エコノミープロバイダーになることを目指しています。

Bureo Stover氏 : 当社は、南米を中心に漁網を回収し、回収した漁網の洗浄・破砕を行います。それをベトナムでケミカルリサイクルによりペレット(粒状の合成樹脂)に戻し、高い紡糸技術を持つ台湾で糸に加工し、日本に輸入します。輸入された糸を使って豊田通商が生地を作り、出来た生地はパタゴニア製品の製作を請け負う縫製工場に渡されます。

廃棄漁網が資源に変わることを啓蒙する重要性


Bureo Ahearn氏 : これまで海中に廃棄されてきた漁網を回収するというプロセスに関してですが、回収はチリで行っています。廃棄漁網の回収を始めた2013年当時は、なぜそんな「ごみ」を持っていきたがるのか、地元の漁師コミュニティからは理解されませんでした。

そのコミュニティで回収してもらった廃棄漁網から生まれ変わったスケートボードの実物を見せて、それまでごみとして認識されていたものが製品として価値あるものに変わることを理解してもらいました。漁師さんたちが廃棄漁網を回収して持ってきてくれることが、ビジネスとして成立するという価値が理解されたのです。

漁網は、重量あたりの価格をつけて買い取る場合も多く、地元の家族経営の漁師さんなど、回収に協力してもらった当事者に利益が還元されるような形での買い取りを行いました。また、収益の一部を、そのコミュニティに所属し、海洋保全活動やマングローブの保護活動を支援するNGO、NPOなどの団体に対して資金提供することで、コミュニティ全体に経済的価値だけではなく環境価値を提供できるような仕組みを作っています。

地元の漁師さんたちに、漁網を廃棄することなく回収して持ってきてもらうことの重要性、それが価値に変わるという事実を理解してもらうことがとても重要です。廃棄漁網にインセンティブを提供するプログラムを始めてから、地元では口コミで協力者が増え、それまで廃棄されていたものが価値ある資源として認識されるようになりました。
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文=和田麻美子

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