中国と技術を競う米国防総省は「電動航空機」実用化に向け動き出す

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消費者向けドローンの開発に対して、米政府は傍観主義的なアプローチを取っていた。現在、消費者向けドローンは中国企業のDJIが世界市場の4分の3以上を独占しており、米政府はDJIのドローンが米国の空で中国のスパイ活動の道具になることを懸念している。

米空軍のAgility Prime(アジリティプライム)プログラムは、同様の失敗を避け国家安全保障への影響に警鐘を鳴らすため、2020年から1億ドル(約133億円)以上を有望だが実績のない新たなイノベーションに注ぎ込んでいる。「電動垂直離着陸機(eVTOL)」と呼ばれるバッテリー駆動の航空機だ。多くの企業がエアタクシーや貨物輸送などの民間利用を目的に開発を進めている。

軍の関与は、米国のeVTOL開発会社が数十億ドル(数千億円)を調達するのを助け、そのうち形成される民間市場に向けて生き残る可能性を高めている。

「米空軍の関与は、これがおもちゃでも空飛ぶクルマでもない本物の飛行機であることを証明している」とトランプ政権時代に空軍の調達責任者を務めた際にAgility Primeを立ち上げたウィル・ローパーは語った。

Agility Primeは軍用機の開発費が数十年にわたり高騰してきたことを受けてのもので、国防総省がより安価で容易に入手できる高度な商用技術を活用できるかどうかを確かめる実験だ。軍は従来のヘリコプターよりも低コストで、滑走路から遠く離れた場所に人や貨物を運ぶためにeVTOLを実用的な役割で使うことを想定している。また、eVTOLは騒音が少ないため、敵陣の背後に部隊を潜り込ませたり、救助活動を行ったりするのにも有効かもしれない。

Agility Primeに参加する15社には、Joby Aviation(ジョビー・アビエーション)やBeta Technologies(ベータ・テクノロジーズ)といったパイロットが乗り込むeVTOLの開発企業や、Elroy Air(エルロイ・エアー)やTalyn(タリン)といった貨物用ドローンを手がけるスタートアップも含まれる。このプログラムでは資金だけでなく、政府の試験リソースや、連邦航空局(FAA)が民間サービスを開始する許可を与える前に軍への販売で収益を得る可能性も提供する。

2022年12月23日に可決された国防予算案では、バイデン政権が要求していた2023年会計年度の7390万ドル(約98億円)よりも5000万ドル(約66億円)多い額がAgility Primeに充てられた。だが「明確な取得・実戦戦略の欠如」を理由に、2023年に数機のeVTOLを試行使用でリースするための360万ドル(約4億8000万円)の要求は却下された。

このプログラムに参加しているいくつかの企業は、軍が2024年に航空機の取得を開始すると考えている。現在Beta Technologiesの取締役を務めるウィル・ローパーによると、調達への移行は国防総省にとって大きな金字塔になるという。「金の出所が違う」とローパーはいう。Agility Primeを運営する空軍の技術加速機関AFWERXは、予算案が確定する前に、同プログラムが「2023年会計年度のeVTOL機の調達を評価し続けている」と声明で述べた。
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翻訳=溝口慈子

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