核融合炉の冷却に「氷」が効果的、1億度のプラズマの冷やし方

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核融合炉では、約1億度という超高温のプラズマを強力な磁場で閉じ込めるわけですが、温度が高くなりすぎるとプラズマが逃げ出して炉を損傷してしまいます。そこで必要に応じて温度を下げてやる必要があります。どんだけ高度な技術が使われるのかと思ったら、なんと氷で冷やすそうです。

核融合は、水素同位体、つまり理科の実験室でポンと燃やしたあの水素とは原子核の構成がちょっと違うやつを燃料に使います。重水素と呼ばれ、海からいくらでも採れます。放射性廃棄物も多少は出ますが、原子力発電のように危険な高レベル廃棄物ではなく、放射線量も100年で100分の1に減少します。さらに、原発のように核反応が暴走することがなく、電源が切れればすぐに反応が停止するので安全です。以上のことから、核融合は夢のエネルギー源とされているのです。

核融合は、重水素を超高温に熱してプラズマ化することで起こります。プラズマとは、原子の原子核と電子がバラバラになり、自由に飛び回っている状態のことです。そこで原子核と原子核が高速で衝突して融合すると、膨大なエネルギーが放出されるというわけです。

現在は、プラズマを長時間閉じ込めておく技術の開発が各国で進められていますが、そこでネックになっている問題のひとつに、プラズマの冷却があります。プラズマが高温になりすぎると、磁場の「カゴ」から抜け出して炉に損傷を与えてしまいます。そのときはプラズマを強制的に冷やしてやるのですが、そこで氷が使われます。なんか、めちゃくちゃローテクな感じがしますが、もちろん、氷水をバケツでぶっかけるわけではありません。

それは、マイナス260度の水素の氷の粒です。これをプラズマの中に撃ち込むと、比較的温度が低いプラズマの塊「プラズモイド」ができます。それが高温のプラズマと混ざり合うことで全体の温度が下がるという原理です。しかし実際にはプラズモイドがうまく混合せず、圧力の差によってドーナッツ状のプラズマの外側に追い出されてしまうという問題がありました。



さて、ここでようやく本題です。量子科学技術研究開発機構と核融合科学研究所からなる研究グループが、それを解決しました。核融合科学研究所は、世界最大の超伝導プラズマ閉じ込め実験装置「LHD」でその実験を重ねるうちに、プラズモイドの圧力を下げる方法を思いついたのです。水素と近い温度で凍るネオンを少量混ぜることで、プラズマのエネルギーの一部が光となって放出されると予測しました。そこで、直径3ミリの水素の氷の粒を1000分の1秒の精度で撃ち出すことができる「固体水素ペレット入射装置」を、ネオンを混合した氷が撃ち出せるよう改造して実証実験を行ったところ、ネオンを5パーセント程度混ぜるとプラズモイドの排出が抑えられ、プラズマの深いところまで冷却できることがわかりました。

日本も参加してフランスで建造が進められている世界最大の核融合実験炉「ITER」(イーター)計画では、2023年に強制冷却システムを完成させる予定です。今回の研究結果は、システムの性能の大幅な向上につながると期待されています。夢の核融合実現へ、また一歩前進しました。

文 = 金井哲夫

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