「シー・ハルクの輸血リスク」をまじめに論じる、科学を身近にする医学誌の恒例企画

シー・ハルクは架空のキャラクターだが、移植片対宿主病は実在する(Getty Images)

英国の医学誌『British Medical Journal (BMJ)』が、非常に風変わりな医学研究を紹介する毎年恒例企画を掲載した。2022年の記事の1つは、シー・ハルクが輸血後移植片対宿主病(TaGVHD)の珍しい症状を呈した症例を報告している。

毎年恒例のイグノーベル賞と同様に本物の科学だが、切り口がおもしろい。そしてそんな屈託のない会話や文章は、働きすぎの研究者と臨床医のための突飛なエンターテインメントである一方、あらゆる人々にとってもっと科学を身近にするすばらしい役割を果たしている。

BMJのクリスマス号は、12月中旬に出版される同医療ジャーナルの年刊特別号だ。掲載された記事は、研究論文あるいは論評で、通常の同誌の記事と同じような形式で書かれている。

シー・ハルクの輸血に関する論文には、輸血の後に移植片対宿主病を発症するリスクに関する本物の医学情報が書かれているが、その対象は、マーベル・コミックの世界でジェニファー・ウォルターズがブルース・バナーから受けた架空の輸血だ。記事には「ハルクの血液と人間の受血者の間のHLA不適合が、移植片対宿主病のリスクを軽減する可能性はあるが、ハルクからの輸血は、安全上の理由から、たとえ白血球除去と放射線療法を併用したしても非常に好ましくない」とある。これは実に医学的だが、ハルクについての話でもある。

BMJクリスマス号の研究記事は、他の研究論文と同じ厳密さで査読されるが、切り口ははるかに気軽なものでよい。たとえば、投稿された研究論文が何回引用されるかをBMJ編集者は正確に予測できるかという研究もある。論文引用はしばしば学問的成功の尺度の1つと考えられている。他の研究者に高い頻度で引用される論文は、そうでないものより価値が高いとされる。この研究によると結果は、編集者は自分たちの読んだ論文がどれほど高く評価されるかの予測があまり得意ではなかった。

正式な引用以外にも、研究論文がどれほど受け入れられているかを測る方法がある。その1つは、人々がどれだけその論文を話題にしているかに注目することだ。Altmetricは、まさにそれをやっているソフトウェア会社だ。彼らは、ある研究論文がソーシャルメディアで言及されたり、ニュースに取り上げられたり、その他何らかのかたちで話題になったかどうかを追跡することができる。想像できるように、華々しく見出しを飾った画期的研究は、Altmetricスコアがかなり高い。しかし、友達とシェアするのが楽しいだけの記事も同様だ。
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翻訳=高橋信夫

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