高橋氏は、後者の主張は傾聴に値すると評価しつつ、「それでも導入を決めた背景を理解する必要があるのではないでしょうか」と語る。「日本の安全保障環境はかつてないほど悪化しています。一日も早く準備をしなければならない以上、とりあえず、手に入るものは先に手に入れるという発想は間違いではありません。トマホークもスーパーで野菜を買うようなわけにはいきません。発注してから生産、引き渡し、操作員の養成などに時間がかかります。その間に、反撃能力の全体システムを構築しようということなのでしょう」
それでも、「役に立たないトマホークを買っても意味がないではないか」という主張は残る。自衛隊幹部は「確かに、中国やロシアが保有するS300やS400といった近代的な防空システムがあれば、トマホークの相当数は撃墜される可能性があります。でも、相手に届く兵器があるのとないのでは、まったく効果が違います」と語る。「トマホークがあれば、相手がそれを防衛している間、こちらが作戦を遂行する時間を稼ぐことができます。評論家の方々は、トマホークの能力にだけ注目しがちですが、作戦全体を考えた場合、トマホークは有力な手段になり得るのです」
また、今回の反撃能力に否定的な主張の論拠には2つの種類があるようにみえる。ひとつは、「護憲・平和論」だ。理念は貴いものがあるし、大事にしたいが、こうした人々もロシアによるウクライナ侵攻や、中国軍が昨年夏に台湾周辺で行った軍事演習に賛成しているわけではない。国家安保戦略が反撃能力の根拠として掲げる「日本周辺の安保環境の悪化」にはある程度の理解があるとみられる。つまり、こうした人々は「令和の状況」を認めながら、「主張は昭和のまま」という状態に陥っているようにも見える。
もう一つは「増税反対論」だ。この反発の背景には、岸田文雄首相がまず、北大西洋条約機構(NATO)加盟国に出てきた「国防費のGDP(国内総生産)比2%」の流れに乗り、「金額先行」の流れを作ったという事情がある。ただ、自民党ベテラン議員の言葉を借りれば、「自分の財布を開けてでも、平和と安全を守ってくださいという気分になれない」という心理状態もあるだろう。政府が議論の進め方を間違えたために起きた反発が、「自分の財布を開けてでも、平和を守ってもらわないといけない状況」を直視できない状況を生み出している。
来年の通常国会での予算審議で、政府が走りながら考えている、「トマホークを、どのような状況で使うつもりなのか」「どんなシステムを構築し、どんな目標を狙うのか」といった具体的な議論が絶対に必要だ。ここで論理破綻したら、導入を諦めるしかない。逆に政府が議論から逃げたら、トマホークを持っても、国民の支持や団結を得られない。
日本は、そのくらい切迫した状況に直面している。
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