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経済・社会

2023.01.02 12:00

トマホーク「役に立つか立たないか論争」に見える日本の課題

Photo by Anusak Laowilas/NurPhoto via Getty Images

日本政府は、米国製の巡航ミサイル「トマホーク」の導入を決めた。12月16日の閣議で新たに決めた反撃能力は、敵の射程圏外から攻撃できる長射程のミサイルを使った「スタンド・オフ防衛能力」を活用する。国家防衛戦略は「2027年度までに、地上発射型及び艦艇発射型を含めスタンド・オフ・ミサイルの運用可能な能力を強化する」としている。トマホークはその「つなぎ」とみられ、政府は来年度予算にトマホーク取得予算として2100億円余りを計上するという。

そして今、一部でかまびすしいのが「トマホーク役に立たない論」だ。トマホークは1980年代から配備が始まり、湾岸戦争やイラク戦争など、様々な戦闘で使われてきた、「現存するなかで、最も信頼性の高い巡航ミサイル」(自衛隊幹部)だ。ただ、弾頭重量は1千ポンド(約450キロ)で、2千ポンド級もある地上攻撃用爆弾と比べれば、見劣りがする。「鉄筋コンクリートの建物に穴は開けられるが、完全に吹き飛ばすほどの力はない」(同)。トランプ米政権は2017年4月、シリア軍の基地などにトマホーク59発を発射したが、大きな打撃を与えるには至らなかったとされる。速度も900キロ足らずのため、携帯式防空ミサイルシステム「スティンガー」で撃墜されることもあった。

事前に目標の座標と画像を入力し、GPS機能と画像照合システムで飛行するため、精密攻撃に適しているが、米軍に現在配備されているトマホークは移動する標的は狙えない。米軍はすでに、地上や海上を移動する目標を攻撃できる改良型トマホークの実験を終えているが、配備は2~3年ほど先になると言われている。こうしたことが、「トマホーク役に立たない」論者の根拠になっている。

元海上自衛隊海将補で徳島文理大人間生活学部の高橋孝途教授(国際政治・安全保障論)は「役に立たない論」について2種類あると指摘する。高橋氏は「それは、持ってはいけない論者と、論理的に考えた結果論者に分類できます。前者は、そもそも反撃能力は憲法・専守防衛違反だから、トマホークを持つなどとんでもないという人々。こうした方たちは、トマホーク役に立たない、という議論を積極的に支持します」と語る。

これに対し、後者の人々は、日本政府は、これから反撃能力を構築するのに、装備の導入を先に決めるのは「順番が違うのではないか」と主張する。日本が反撃能力の導入を正式に決めたのは12月16日だ。これから、反撃能力を使うための情報収集の仕組み、指揮体系、発射プラットフォーム、配備場所などについて詳細に詰める必要がある。関係者の1人によれば、「トマホーク導入」は確かに、こうした議論の積み重ねの結果決まったのではなく、どちらかといえば、政府高官らの「トマホークがあるじゃないか」といった「半ば思いつき」(同)によって決まったという。
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文=牧野愛博

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