「Wear the Voice.(心地良いわたしを纏う)」をコンセプトに、素材選びや刺繍、ほんの2.3mmのダーツの位置にもこだわる。展示会では「着心地がいい」「抱きついてくる子どもまで、気持ちよさそう」「長く使えそう」といった声が相次ぎ、予想以上の売上を記録中だ。
この新規事業を提案したのは、2013年に入社した郡司恭子アナウンサー。「デザイナーになりたかったわけでも、事業家になりたかったわけでもない」と話す彼女が、30歳を迎えて直面したキャリアへの迷いとは。
もやもやする思いを企画書や事業プランにぶつけ続けた日々を振り返り、その迷いにどう答えを出したのか、軌跡を追った。
アナウンサーは「土を耕す仕事」
入社してからこれまでZIP!などの情報番組や、沸騰ワード10!などのバラエティ、最近は「情報ライブ ミヤネ屋」のニュースコーナー、ゴルフ実況といったスポーツ中継まで、多様な番組に出演してきた郡司。その中で、次第にアナウンサーの仕事は「土を耕す仕事」だと捉えるようになった。
「例えば箱根駅伝や高校サッカーなどに代表されるスポーツ中継は本来、実況がなくても成立するエンターテインメントです。あくまでも選手が主役のスポーツ番組で、あえて私たちが実況する意義は、選手の素晴らしさや、その種目の面白さを伝えることにあると考えています」
番組を通じて伝えることで、(例えばスポーツという土壌から)様々な「芽」が出て花が咲くといい。そのために土を耕すのがアナウンサー。そう考える郡司がAudireのアイデアに行き着いたのは、デザイナーや実業家になって、派手な花を咲かせたくなったからではない。
着用しているのは「No collar box jacket (Blue gray×Off white)」、3万800円
日本テレビには、元々全社員が番組や事業の企画を提案できる制度があった。郡司はその制度を利用し、2020年4月ごろから番組企画を応募していた。
「見よう見まねで企画書を書きはじめて、10回くらい応募したと思います。韓国ドラマのリメイクからバラエティ番組、特番までいろんな企画を考えました。でも全然ダメで。編成担当の上司に『ロケがしにくい』『エキストラを集めにくい』と、何度もフィードバックをもらいました」
そんなタイミングで、新規事業などを手掛けるCEORYからビジネス部門に、アナウンサーを使ったアパレル事業の提案があった。他社の事業にアナウンサーを使うのはルール上難しいため断る方向だったが、その話を聞きつけた郡司が、自社事業として自分で立ち上げたいと手を挙げ、事業企画書を書き上げ提案した。