本当にいまのキャリアだけで良いのか
なぜ何度落とされても企画を出し続け、新しいビジネスに挑戦しようと思ったのか。 それはここ数年、郡司がキャリアについて考えることが増えたからだ。
「大きなきっかけは、コロナ禍で“現場”の数が減ったことでした。周りの社員の働き方はどんどん変わっていくのに、出役である私たちアナウンサーはリモート勤務には変えられない。中継があるのに現場で取材ができないなど、忙しかったはずの日常に時間が生まれて。ただ何もしないでいるのが怖かったんです」
アナウンサーの仕事を大切に思う一方で、時間があればあるほど、いまのキャリアだけで良いのかという不安を抱えるようになっていった。
ちょうど30代に差し掛かり、周囲が優しさや思いやりから掛けてくる声を、時としてノイズだと感じるようにもなったという。
「私にとって30歳は、数字が1つ増えるだけという感覚でした。でも周りは悪気なく年齢やライフイベントの話を聞くし、話してくるようになりました。私はこれまで通り仕事を大切にしていきたいのに、“そのままの自分”でいることがこんなにも難しいのかと感じました」
目の前の企画書に一生懸命向き合うことで、そんな風に頭をもたげる雑念を払拭していった。郡司はそのときの心境を、慎重に言葉を選びながら話す。
「何か強い信念や情熱、ぶれない軸があって、Audireの企画をつくっていったわけではありません。前向きでありたいとか、私らしくいようとか、自分を肯定したい、表現したいとも違っていて……。なんて言えばいいのか──時として気持ちが“揺らぐ”ときもあるんですが、そんな自分を好きでいたい、ねぎらいたい、いたわりたい、そういう気持ちでした」
こうした郡司の思いは、ブランドコンセプトにも現れている。
揺らぐわたしを纏って進んでいく
「Wear The Voice.(心地良いわたしを纏う)」というブランドコンセプトにたどり着くまでには、自身の生い立ちから、過去の悩み、いま考えていることまでを、古い手帳などをさかのぼりながら、ノートに書き出していった。
そして週に1回、社内外の5人のメンバーで3時間にもわたるディスカッションを実施。赤裸々な自己開示やワークショップを行った。
「アパレルブランドを立ち上げるなら、ブランドコンセプトがしっかりしていないと立ち行かなくなります。Audireは私だけでなく、アナウンス部のみんなが関わる事業になるから、一緒に取り組む人みんなが同じベクトルを向けるようにしたい、と思いかなりオープンに話しました」
Audire drape blouse (White)、1万9800円。デスクにいる時や、リモートワークのカメラ越しでも印象が生まれるようにデザインした