年末年始だからこそじっくり読みたいミステリ小説5作品(国内編)

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それと前後して、町では不可解な失踪事件が連続し、不穏な空気が高まっていく。葵のクラスを担任する女性教師の狭間は、動揺する生徒たちに優しく接するが、あるとき衝撃的なひと言を口にする。「このクラスで生きていてはいけない人間がいます」と。

灰色の雲に遮られ、光の射さない町というユニークな舞台設定にまず意表をつかれるが、やがて2人の少女をめぐる運命の物語であることに気づいた読者は、教師の発言から急展開する物語へと引き込まれていくに違いない。終盤さらに意想外の変貌を遂げるあたりの周到さも見事で、ミステリとホラーの長所を兼ね備えた、この賞ならではの受賞作といっていいだろう。

「そして、よみがえる世界。」西式豊



西式豊「そして、よみがえる世界。」(早川書房)

もうひとつ、新人賞の狭き門をくぐり抜けた新鋭の作品を。アガサ・クリスティー賞に輝いた西式豊の「そして、よみがえる世界。」(早川書房)は、2036年という近未来の物語だ。

脳神経外科医の牧野は脊髄損傷で首から下が麻痺し、寝たきりの状態を強いられている。しかしテクノロジーの進歩により、代替身体が彼の日常の活動を代行し、仮想空間ではアバターで手術の執刀も行える。

そんな牧野に、オペの代理執刀の話が舞い込んだ。依頼主は恩師の森園で、彼が属するSME社は、牧野も世話になっている脳内インプラントや仮想空間の開発で身体障害者の活動範囲を飛躍的に広げた企業体だった。牧野は、記憶と視覚を失った少女エリカの手術を難なくこなすが、その直後からエリカは時折視界に入る謎の黒い影に脅かされるようになってしまう。

いきなり、これは「ガンダム」?、 それとも「ドラゴンボール」か?という戦闘場面が展開され、度肝を抜かれる読者もあるだろう。しかし、現実と仮想空間を自在に行き来できる近未来の殺人事件をめぐるフーダニット(誰が犯人か)の輪郭がやがて姿を現わす。一種の特殊設定ものともいえ、医学ミステリの面白さがたっぷりとある。ミステリというジャンル小説の枠組みを大胆に拡張する試みに拍手を贈りたい。

「アクション 捜査一課刈谷杏奈の事件簿」榎本憲男



榎本憲男「アクション」(幻冬舎文庫)

万年ヒラの巡査長や政府機関の超エリート、イケメン刑事と可憐な女子高生など、いくつものシリーズを並行して、そのいずれもが警察小説として個性派という榎本憲男が、またも新シリーズをスタートさせた。

「アクション 捜査一課刈谷杏奈の事件簿」(幻冬舎文庫)に登場するのは、女優で刑事という変わり種のヒロインである。
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文=三橋 曉

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