「生き残れば自由」、ハイテクに監視されたロシア囚人の決死隊

Getty Images

1987年に公開されたアイコン的な映画『The Running Man(バトルランナー)』では、有罪判決を受けた犯罪者がテレビのゲーム番組に参加させられ、テレビカメラが見守る中、自由を勝ち取るために送られた未来社会で武装した敵の集中攻撃を切り抜けなければならない。

英情報機関の報告書によると、2022年に悲惨な未来がロシアの囚人たちにとって現実のものとなった。彼らはスマートフォンで追跡され、ドローンに監視されながら、生き残って自由を勝ち取るというかすかな望みを持ってウクライナ東部バフムトの「肉挽き機」に送り込まれている。

囚人たちはロシアのWagner Group(ワグネルグループ)の新規加入者で、同組織は公式には政府から独立して活動する「民間軍事請負業者」または傭兵集団だ。だが実際のところ、ワグネルはロシア政府、特にロシア軍事情報機関である軍参謀本部情報総局(GRU)から支援、資金提供、装備提供を受けている。ロシアは確実に、そして一定の距離を置きながら外交政策を実行するためにワグネルを利用している。ワグネルはアフリカのさまざまな地域やシリアで活動している。2018年のシリアでの一方的な「ハシャムの戦い」では、米国の空爆や大砲によって数百人のワグネル傭兵が殺害された。

ワグネルはその残虐性で有名だ。ワグネルの傭兵はアフリカなどで戦争犯罪を犯しており、これにより場所によってはテロ組織に指定されている。ワグネルは自らのメンバーに対しても同様に野蛮なアプローチをとっており、無許可での携帯電話使用を理由に指を切り落とすなどの処罰があると報じられている。ソーシャルメディアにアップされた動画には、ワグネルの元メンバーであるエフゲニー・ヌージンが囚人交換でロシアに戻った後「脱走」を理由に大型ハンマーで処刑される様子が映っていた。

1999年に殺人罪で有罪判決を受けたヌージンは、ワグネルが勧誘した多くのロシア人囚人の1人だった。サンクトペテルブルグで始まり、その後ウラル、シベリア、極東の流刑地に拡大されたこの勧誘は殺人と強盗で有罪となった者だけを対象としている。新人は高給を提示され、6カ月生き延びれば無条件で自由になれる。

この方法でワグネルに徴用された囚人は2万3000人にのぼるという。囚人らはわずか3週間の訓練を受けるだけだ。脱走、略奪、戦争犯罪の発生率が高いという事例報告がある。ワグネルはバフムトの「肉挽き機」の前に囚人を投入し、ウクライナ軍の防衛を弱らせるために、あるいは占領を続けるために囚人らを大砲の餌にしている。死傷者はもちろん多い。

士気のない兵士を最前線に押し出すというロシアの伝統的な方法は、後ろに「バリア部隊」を置いて前進に加わらない者を射殺するというもので、スターリン時代以前からの慣行だ。英情報機関の報告書によると、ワグネルは現在、前線に到達した大量の訓練不足の囚人を最大限に活用できるよう、強制力を高めるためのハイテクアプローチを取っている。
次ページ > 監視ドローンが処刑を実行しているかもしれない

翻訳=溝口慈子

ForbesBrandVoice

人気記事