「好奇心と、情熱ですね」
自社の従業員に求めることは何か。この問いかけに、ヤマハ社長の中田卓也は迷わずこう答えた。
「つまらないと感じる仕事でも、好奇心をもって取り組めば楽しむヒントが見つかる。そのヒントを手がかりに情熱をもって進めていけば、仕事も環境もよい方向へと改善されていく。そして、その変化が働く喜びにつながる」
どんな仕事にも、やりがいは見つけられる。世界一の総合楽器メーカーを率いる中田の、入社当時からずっと変わらないモットーだ。
好奇心と情熱を原動力に、心を動かしながらアクティブに働く。その姿勢を中田は「play」という言葉で表現する。
「playはスポーツを楽しんだり、楽器を演奏したりするときにも使う言葉ですが、仕事でもplayの感覚を大事にしたい。なぜなら、遊びながら生きることこそが人間らしさだからです」
そして、従業員とともに世界中の人々にplayを届けて、心豊かな社会をつくる。これが、ヤマハが目指す未来だ。
電子機器や音楽機器に使う半導体不足の影響などから、ヤマハの2022年3月期の売り上げは中期経営計画の目標を下回った。しかし、生活様式が大きく変容したポストコロナはむしろチャンスと中田はとらえている。
「コロナ禍以降、『音楽のおかげで自粛生活が楽しくなった』『楽器の演奏を再開したら生活が豊かになった』といった声がたくさん届きました。楽器は“人間必需品”なのだとあらためて実感しました」
楽器や音楽は、やっぱり面白い──。
コロナ禍で生まれたこのムードを消さないように、自社の強みであるアコースティックやデジタルの技術にAIやネットワークをかけ合わせ、新たな体験価値の創造に力を注ぐ。「『新たな社会』は、技術×感性のヤマハにとってさらなるチャンス!」をかけ声に、25年3月期には事業利益率14%を目指す。
国境を越えて知見をぶつけ合う
ヤマハは世界各国に約2万人の従業員を擁する。社員の活力は、企業の社会的価値の創造に不可欠な要素だ。そのベースとなるのが「働きがい」である。
「働きがいとは、自己承認と他者承認が直結したもの。自分のやっていることが社会や仲間の役に立っていると実感できることだと考えています」
そのために重視しているのが、従業員との対話だ。例えば、20年6月から始めた「中田さんが行く! 頑張る職場訪問(リモート編)」。従業員がリスペクトし合う組織風土を醸成するために中田が発案した。