ビジネス

2022.12.22

「必死の床屋のおばさんです」というプレスリリースに出くわした

プレスリリースより

「必死の床屋のおばさんです」というプレスリリースに出くわしました。Webニュースを執筆するときはプレスリリース(広報資料)を参考にすることが多くありますが、たいていは企業の新製品発表や研究機関の新発見のニュースなどが報道機関に向けて発信されるもので、普通のおばさんからのものは初めて見ました。

いや、普通のおばさんと言っては語弊があります。これを発表した市ノ瀬まさ子氏(78歳)は、15年間にわたり養護施設の子どもたちの散髪を無償で続けてきたという、キャリア60年の床屋の主人です。コロナ禍で床屋の経営が傾き、経費が売り上げを上回ってしまいましたが、体の続くかぎり床屋を続けたいと願い、CAMPFIREにてクラウドファンディングによる資金調達を実施したということです。



クラウドファンディングは、そもそも資金力に乏しい製品開発者や作家が寄付を募るもので、その意味では市ノ瀬氏のプロジェクトは正攻法と言えます。驚いたのは、それをプレスリリースにして報道機関に訴えたことです。

プレスリリースと言えば、インターネットが普及する前は、きれいに印刷されたパンフレットを、きれいなファイルに挟んで、きれいな紙袋に入れて、きれいなコンパニオンのお姉さんが見本市などで配るというものでした。企業がお金をかけて広告代理店に依頼して作るキラキラの宣伝媒体というイメージです。

しかし今では、PR TIMES@Pressなど、プレスリリースの配信を1配信3万円程度で代行してくれるサービスが数多くあります。なかには、ぷれれりのように、原稿や情報を入力するとデジタルのリリースに体裁を整えて配信してくれる無料サービスもあります。なので、誰もがプレスリリースを発信できる時代になったわけです。

とはいえそうしたサービスでも、公開されるリリースはほとんどが企業の広報です。なので「おばさん」のプレスリリースは衝撃的でした。これぞまさに、プレスリリース、つまり広報の民主化ということでしょう。インターネットの面目躍如です。本当に「誰でも」プレスリリースを発信できることを市ノ瀬氏は証明してくれました。今後、広報はますます個人レベルの広がりを見せてゆくことになるでしょう。上手に利用したいですね。

文 = 金井哲夫

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