企業と人材の間に立つエージェント選びに問題はないのだろうか。Adecco Group Japanの人材紹介・転職支援サービスの責任者であるSpring転職エージェントの板倉啓一郎氏に、企業も求職者も満足できるマッチングの極意について話を聞いた。
コロナ禍で生じた“変化”に気づかない企業
求人倍率や失業率など、数字のうえではコロナ禍以前の水準に回復しつつある日本の雇用・労働市場だが、その根底を支える採用の現場は、コロナ前後で大きく変貌を遂げている。
ひとつめの大きな変化は“採用の方法”だ。まだまだ感染拡大の懸念が残る中、企業は以前までのようにジョブフェアのような大きな会場へ人を集めて面接をしたり、説明会を実施したりすることが難しくなった。もちろん、リモート面談が手軽にできるZoomなどのツールが普及したという理由もあるだろう。
もうひとつが雇用形態の変化だ。
Adecco Group Japanの人材紹介・転職支援サービスのブランドである「Spring転職エージェント」のトップである板倉啓一郎氏は、ジョブ型雇用の加速を指摘する。「我々の肌感覚だと、部分的な移行も含め約4割の企業がジョブ型雇用に移行しています。この3~4年の間にその傾向が強くなってきましたが、コロナ禍で拍車がかかった印象です」
特にマーケティングや財務経理、デジタル系など専門性の強い職種ほどジョブ型雇用を採用するケースが多い。
「世の中の仕組みが複雑になり、ITやデジタルも高度化する一方です。もはやひとりの人間が事業やサービス全体を見渡せるレベルではありません。これまで以上に細分化と複雑化が進んでいると考えています」(板倉氏)
さらに専門知識と専門知識の掛け合わせも生まれている。「例えば金融業界でもFinTech系の求人が増えていますし、人事や採用の世界でもHR Tech系の人材に対する需要が急速に拡大しています。今や、単に“マルチで色々なことを知っています”という人材では、転職は難しい。逆に企業からしても、専門家の採用は難しくなる一方です」(板倉氏)
さらに、採用に関する情報やチャネルの急激な多様化も、この数年における大きな変化と言える。企業は様々な媒体に求人情報を掲出しているので応募者は増えているが、母数が増えたからといって必ずしも採用に繋がらないのが実情だという。
「今は求人媒体も多く色々なツールもありますので、自動で数十社という企業に応募することも可能です。そのため、内定からの受諾率がどんどん下がっています。情報が溢れているため、企業の負担も増えているし、転職希望者も情報を整理しきれないことが多くなっているように見えます」(板倉氏)
顧客満足度が高いエージェントサービスに必要なもの
労働力人口の減少に加えて採用活動が複雑になれば、企業はますます人を採用しづらくなる。
もはや、従来の方法では、将来的に必要な人材を確保できなくなるのではないかと不安になる採用担当者も多いだろう。このような状況のなか、Spring転職エージェントの人材紹介・転職支援サービスは、利用者から大きな支持を集めている。
第三者機関が調査を実施する顧客満足度の指標のひとつであるNPS (ネット・プロモーター・スコア)では、企業と転職希望者の両方で日本における同様のサービスに比して2~30ポイント以上も高いという結果が出ている。先に述べた3つの市場変化にいち早く対応し、成果をあげているからだと板倉氏はその理由を分析する。
「我々は、いち早くコロナ禍のなかで始まった新しい採用スタイルとトレンドに対応することができました。Springではコロナ禍の数年前からフルフレックス制やリモートワークといった柔軟な働き方の導入を進めていて、設備も制度もすでに整った状態にありましたので、クライアントと転職希望者に対してすぐにリモートでの面談や採用面接の提案、アドバイスをすることができました」(板倉氏)
“ジョブ型雇用”への対応にも先見の明があった。「私が2014年にAdecco Group Japanに入社する以前は、企業アカウントごとに担当者がいて、その担当者がすべての職種の採用をサポートするという形です。しかし、これからは日本でもポジションごとにジョブディスクリプションが確立され、職種ごとにより専門性を持ったコンサルティングが求められる時代が来るという確信がありました」(板倉氏)
グローバル企業では、すでにゼネラリストではなくスペシャリストの採用が普通になっている。「これからは、日本もジョブ型になっていく。それならば今までの体制を根本から見直し、Springの部署も職種別の専門組織に再編成しなければならないと考えました。このように時代のトレンドの少し前を進んできたことで、現在の我々のビジネスに付加価値を生んでいます」(板倉氏)
企業と人材をつなぐビジョンとパーパス
ジョブ型雇用が進み、採用に関するチャネルが多様化するなか、効率優先のマッチングでは企業にとっても転職希望者にとっても良い結果をもたらすことはできない。企業と人材の双方を深いレベルで理解しているエージェントによるコンサルティングが必要不可欠だ。
「Spring転職エージェントには『360度式コンサルティング』と『職種別専門部門制』という特徴があります。転職希望者に対するキャリアコンサルティングと、企業に対する採用コンサルティングを1人のコンサルタントが担うのが『360度式コンサルティング』。よく混同されがちなのが一気通貫というやり方なのですが、これは、一人のコンサルタントが、候補者に対して自分が担当する5~6社の中でマッチングする個人プレーのやり方です。それではあまりにも情報が少なすぎます。
それに対して、『360度式コンサルティング』はチームで動きます。しかも、Springは『職種別専門部門制』を敷いているので、それぞれの業界に特化した専門性の高いエージェントで構成されるチームがときに柔軟に連携することで企業にとっても人材にとってもベストな提案をすることができるのです」(板倉氏)
Springのサービスの核となるのが、ビジョンにフォーカスしたコンサルティングとマッチングだ。Adecco Group Japanは、「ビジョンマッチング」という名称で商標も登録している。
「重要なのは、その企業や部門のビジョンやパーパス、カルチャーが、人材が持つビジョンとマッチすること。雇用条件やこれまでの経歴といった表面的な情報だけでは本質的なマッチングにはつながりません。人材を採用する部署はどのようなビジョンを描いているのか。転職を希望する方は、仕事を通してどんなキャリア、さらには人生を送りたいと考えているのか。条件だけでなく、ビジョンのレベルで企業と人材をマッチングしなければ、採用と転職の成功にはつながらないと考えています」(板倉氏)
ビジョンのレベルでマッチした企業に入社した人材は、入社後の定着率が高く、満足度も高いことがわかっているという。
「Adecco Group Japanのビジョンは、『人財躍動化を通じて、社会を変える。』です。躍動とは、生き生きと働いている状態のことです。働く人すべてが生き生きと働けるようにサポートする、そうすることでこの社会全体を変革することができると、我々は考えています。Springのサービスも『人材躍動化』を実現するためにあるのです」
そういった人材が覚悟を持って入社することも、ビジョンマッチングによってマッチングした人材の定着率が高い理由のひとつだと板倉氏は言う。
「ビジョンマッチングを行うときには、まず求職者に対してキャリアビジョンやライフビジョンをお聞きします。そうすると、求職者は自分がどんなキャリアを積みたいのか、どのように生きていきたいのか、改めて考えることになります。その過程を経て自身のビジョンが明確になると、ビジョンがマッチする企業で働くことに対する覚悟が高まり、高い定着率や満足度へとつながっていくのです」
LHHとのブランド統合でサービスポートフォリオを拡充
さらなる進化を果たすため、Spring転職エージェントは2023年にAdecco GroupのグローバルブランドであるLHHと統合し、LHH転職エージェントとなる。これにより、これまでの人材紹介・転職支援に加えて、「組織開発支援」や「リーダー研修」、「採用代行」といったサービスも複合的かつ一体的に提供することが可能になるという。
「管理職などのマネジメント層にはリーダーシップが求められますが、リーダーを育てるためのプログラムを持っていない企業が意外と多いのです。そういった企業に『リーダー研修』を個別で提供することもできますし、管理職を採用する段階からサポートすることも可能です。また、人材がより活躍できる環境を求めている企業には、採用だけでなく組織開発からコンサルティングを提供していきます。こういったことも、Adecco Group Japanのビジョン実現につながると考えています」(板倉氏)
さらにグローバル企業であるAdecco Groupならではのサービスとして、海外からの人材採用や、海外の企業への転職支援も強化していきたいという。
「Adecco Groupは世界60か国で事業を展開しています。言葉の壁はあるものの、世界中の優秀な人材にアクセスできるメリットは非常に大きいと考えています。また、活躍の場を国外に求める方に対しても、我々が持つネットワークを生かして、ビジョンに合致した仕事を紹介していきます」
転職を機に自己を見つめ直す。それは、頼りになるパートナーと共に自らの生き方を考える良い機会なのかもしれない。
板倉啓一郎◎アデコ株式会社 執行役員 兼 Spring転職・就活エージェント代表 (SVP, LHH Recruitment Solutions Japan)
1963年生まれ。慶應義塾大学理工学部卒。大学卒業後、伊藤忠商事株式会社に入社。ケリーサービスジャパン代表取締役社長、TSケリーワークフォースソリューションズ株式会社CIOなどを経て、2014年に転職支援・人財紹介事業の責任者としてアデコ株式会社(Adecco Group Japan)に入社。2022年より現職。