多くの飲食店が営業不振に陥ったにもかかわらず、驚くべきことに、都内の「ガチ中華」の出店はむしろ加速化した。とりわけ店が増えたのはコロナ禍2年目の2021年で、今年は少し落ち着いた感もあるが、この年末から新年にかけてオープンする店もいくつかある。
このパンデミックの時代に、どうして「ガチ中華」の店がこれほど増えたのだろうか。筆者はこれまで本コラムでその理由をいくつか指摘してきたが、今回はあらためて「ガチ中華」にまつわるさまざまな疑問や背景について現時点での見解を述べてみたい。
経済発展が生んだ現代中華料理
そもそも「ガチ中華」は、日本に住む主に中国系の人たちが供する彼らの出身地のものに近い料理だが、日本人の多くがその世界をよく知らなかったのには理由があった。
それまで日本の人たちは、19世紀に中国南部の広東省や福建省などから海外に渡った人たちが伝えた料理をベースに、現地化された中華しか知る由がなかったからだ。
だが、「ガチ中華」はそれらの料理とはまったくの別物である。言うなれば、21世紀における中国の飛躍的な経済発展が生んだ現代中華料理なのである 。そして、それらの料理は、かつては現地に行かなければ体験できないものだったのである。
実は、現代中華料理が生まれた背景には、中国の外食産業の発展がある。中国では21世紀に入ってロジスティックスの進歩で食材が多様化し、各地で多くの創作料理が生まれた。都市化の進行にともない新しい外食チェーンも次々と誕生した。
中国ではまた、2010年代の爆発的な海外旅行ブームの少し前に、国内旅行ブームがまずあって、旅先で味わう地方料理が人気となり、これらの料理の全国化が始まった。これは東京で博多のとんこつラーメンが普通に食べられるようになったのと同じで、今日の大都市圏に住む中国の人たちはそれが当たり前のことだと思っている。
さらに、日本を先取りする飲食サービスや新しいオペレーションも登場した。2010年代半ばから、店の予約から注文や支払いまでが可能なモバイル決済が驚くほどのスピード感で普及したのは、その一例にすぎない。
中国では2010年代半ば頃から飲食店でのモバイル決済が普及。注文はスマホで行い、会計はテーブルですませるのが当たり前になった
このため、現在、東京都内の「ガチ中華」でもメニューのペーパーレス化が進み、QRコードでメニューを読み取り、注文させる店がかなり一般的になっている。
「食」は、かつて中国最大のエンターテインメントだった。こうした歴史的にも名高いグルメ大国が、現代中華料理の隆盛で完全復活したといえるだろう。