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2022.12.27 20:00

【寄稿】なぜAPUのアジア太平洋学部には、世界中から「国際関係」を志す若者が集まってくるのか

「立命館アジア太平洋大学」(Ritsumeikan Asia Pacific University、以下APU)のキャンパスは「ミニ国連」と呼ばれるほど国際色が豊かだ。

学生の2人に1人が、102カ国・地域からの「国際学生」であり、教員の2人に1人が外国籍で、85%が海外の大学で学位を取得している。授業の9割は日本語と英語で行われているほか、中国語、韓国語、ベトナム語、スペイン語、タイ語、マレー・インドネシア語のアジア太平洋地域で話されている6言語もネイティブの教員から学ぶことができる。またキャンパスが多国籍のため、学んだ言語をすぐ友人に使ってみることができるのも特徴の1つだ。このような環境なので卒業後は、海外をまたにかけるグローバル企業や国際機関で活躍する者も多く、国連やその関連機関では30名以上のAPU卒業生が活躍している。

そんな国際色豊かなAPUの中でも、学生の「多様性」、つまり「裾野の広さ」で際立っているのが、「アジア太平洋学部」(College of Asia Pacific Studies 以下、APS)である。

APSは50以上の国・地域の学生が在籍しているが、そこで特徴的なのは、中国やベトナムという近隣の比較的な大きな国ばかりではなく、「日本から遠く離れた小さな国から1人で留学にきた」という留学生もかなりいるということだ。それは国内の学生にも当てはまる。東京、大阪、福岡という大都市周辺の学生ばかりではなく、北は北海道から南は沖縄までまさしく全国津々浦々からAPSにやってきている。


APSのミッションは、発展著しいアジア太平洋地域を中核とする研究・教育を通じて、世界の持続的発展と共生に貢献するということで、教学目的のひとつには「多様性への理解」ということもあるが、この学部の存在自体が「多様性」を学ぶ格好の舞台となっているのだ。

そこで、APSの学部長を務める佐藤洋一郎教授に、なぜここまで学生の裾野が広いのかという理由とともに、これからのAPSの新しい取り組みについて聞いてみた。


「なぜAPSを目指す学生の裾野が広いのかというと、やはり国際関係を学ぶ “環境”として非常に優れているからでしょう。世界中からやってきた学生たちと意見を出し合って、とことん話し合うということで、アジア太平洋地域を中心にした国際関係に必要不可欠な、文化の異なる他者の視点というものがよく理解できる。そこがまず大きな魅力です」

佐藤教授によれば、国際政治学などを学ぼうとするとどうしても「自国のバイアス」というものがかかるという。例えば、日本人の学生が国際関係を学ぼうと思っても、日本人の教員から日本語で授業を受けて、日本人の友人たちと意見交換をしたらどうしても、「日本」の視点ばかりの国際論になってしまう。どうしても自国の政治システム、自国の社会通念、自国の価値観に引きずられてしまい、視野が狭くなってしまうというのだ。しかし、100以上の国と地域から学生が集まるAPUではその心配はない。

APSがそのような多様性に富んだ教育環境だということを、どうやって遠く離れた国の若者たちが知ることができるのかというと、そこにはAPSの「発信力」の高さがあるという。

「APSの教員は多くの海外のメディアに露出しています。私もこれまで海外の新聞でインタビューを受けたり、現地の報道番組などに数十回出演しています。また、CNNやアルジャジーラTVがわかりやすいですが、海外メディアはネットでも情報を配信していますので、それが国境をまたいで世界中に届く。それでAPSの存在を知ったという学生もいます」

では、なぜAPSの教員はそんなに海外メディアに取り上げられるのか。実はそれこそがAPSの最大の強みである「教員の国際通用性の高さ」だと佐藤教授は強調する。

「まず、APSの教員は日本人であってもほぼ全員がバイリンガルで、英語で論文を執筆しています。学術論文というのは、世界でどれほど引用されているのかということを示す指標があるのですが、APSの教員はこの論文の引用度が非常に高いという特徴があります。それだけ世界で論文が読まれているということなので、世界中のメディアから取材の依頼が入るのです」(佐藤教授)

さらに、この国際通用性は「学術研究」だけにとどまらない。APSの教員の多くが政策分野のネットワークを有しており、海外のシンクタンクなどでも講演をすることが多いというのだ。

その筆頭が佐藤教授だ。前職では米国国防総省アジア太平洋安全保障研究所に所属し、アメリカのインド太平洋地域における安全保障戦略について研究してきた佐藤教授は現在、海上保安庁とJICA(国際協力機構)の共同プログラムで、アジア、アフリカという幅広い国の人々を対象に、海洋安全保障の人材育成のための講義やトレーニングを何年も続けている。

このような学術研究以外のフィールドでもAPSの教員は世界で活躍をしている。それによってAPSの存在を知った若者が、世界中から国際関係を学ぶためにやってくるというわけだ。



「これは日本人の学生にとっても非常に魅力的な環境です。10年後、グローバル企業の中堅幹部になっているような留学生たちと机を並べて学び、意見を交換し合う。そして、授業が終われば寮やアパートで、そういうさまざまな国から来た友人たちと交流を重ねる。こんな貴重な経験ができる大学は日本では他を探しても簡単には見つかりません。もし自分が若い時にAPSのような学部があったら絶対に行ってみたいと思いますね」

日本の若者たちにとっても、APSが魅力的だということがよくあらわれているのが、学生たちの出身地だ。佐藤教授自身が教えた学生たちだけでも、日本全国からやってきていたというほど多様性に富んでいたという。

「これは国際的な感性が高い学生、保護者の方が増えてきた証左だと思います。かつては地方の優秀な学生は、東京や大阪にある有名大学を目指すというケースが多かったですが、今は九州から直接、世界の都市に行き来ができますし、実力がある研究者や大学院生は、世界の名門大学と研究提携などもできます。APSのようなところで学べば、東京などの首都圏を経由しなくても、世界に向けて羽ばたくことができるということを理解している人が増えてきたのでしょう」

そんなAPSが今春、さらなる高みを目指して新しい取り組みをスタートさせる。「国際関係」「グローバル経済」「文化・社会・メディア」という3つの学術分野を横断的に学べるような新カリキュラムを導入するのだ。

これはかなり意欲的な取り組みである。一般的な大学では、「国際関係」は政治学部や国際学部で扱い、「グローバル経済」は経済学部などで扱う。「文化・社会・メディア」は社会学部のイメージが強い。しかし、APSはアジア太平洋地域という切り口によって、社会科学の中核をなすこれら3つの異なる学修領域を体系的に学ぶようにするというのだ。

これを可能とするため、APSでは「グローバル経済」を担当する経済系の教員を学内の転籍により補充して、さらに新たに3名の教員を採用して体制を強化する。

「これまでお話をしてきたように、APSは教員の国際通用性の高さから、国際関係に非常に強みがありました。卒業生の進路などを見てもらえれば一目瞭然ですが、あえてうたってこなかったのです。今回、3つの柱を掲げたことで国際関係ということを前面に押し出そうとしています。私たちからすれば、ついに“隠し球”を表に出したという感じです」

佐藤教授がここまで「国際関係」を強調しているのは、日本が「内向き」になっているのではないかという危機感もあるという。

「歴史的に見ても、日本というのは世界に出て実力をつけた人が戻って支えていくことで成長をしています。内向きになったら日本はおしまいです。多くの若者もそれを感じていると思います。でも、具体的にどうしたらいいかわからない。だからこそ、そのための教育をこのAPSで提供していきたいのです」

世界を学んでそれを国内で生かす、といえば大分には海外に目を向けた「キリシタン大名」として知られる大友宗麟がいた。九州は長崎を筆頭に南蛮貿易が盛んだった地域だ。新しい時代に備えて「広い世界の知見」を貪欲に吸収しようとしてきた地域とも言える。

「そういう点では、APUは九州の国際観をしっかりと引き継いでいると言えます。教育関係者の中には、“いい大学だけど場所が別府だからね”なんて揶揄する人もいますが、実は別府から世界につながっているということや、別府に“ミニ国連”ともいうべき国際性があるところに価値があるんです。そんな環境の中にあるAPSに魅力を感じた若者はぜひここにやってきて、多様性に富んだ仲間たちと日本と世界を変えていく力を身につけてほしいですね」


佐藤 洋一郎(さとう よういちろう)◎神奈川県出身。立命館アジア太平洋大学アジア太平洋学部長、アジア太平洋研究科長。慶應義塾大学 法学部(学士)卒、米サウスカロライナ大学国際研究科(修士)、米ハワイ大学にて政治学博士号を取得後、ニュージーランドのオークランド大学で講師、米国国防総省・アジア太平洋安全保障研究所などを経て、コロラド鉱山大学客員研究員、東南アジア研究所上級客員研究員(シンガポール)なども歴任し、2021年4月より現職。専門分野は、政治学、国際関係論。日米安全保障や日本のアジア太平洋地域における外交戦略などについて、海外メディアに多数出演。1年のおよそ半分を研究や調査にて海外で過ごす。趣味のウインドサーフィンでは、国際レースに出るほど大の海好き。



立命館アジア太平洋大学
https://www.apu.ac.jp/home/newapu/

Text by Masaki Kubota