今から2000年以上前の紀元前58年日本では弥生時代のころ、ガリア(現在のスイス、フランス、ベルギーの辺り)では多くの部族が対立し、制圧と反乱が繰り返されていました。その血気盛んなガリアを平定するために動いたのが、カエサル率いるローマ軍であり、本書は、元老院へその戦況報告をするためにカエサル自身が記したものだとされています。
あまり本を読まない私が本書に引かれ、折に触れて読み返したのには、きっと自分のもっている価値観と共感できるところがあったからでしょう。
読んでいただくとわかりますが、前置きなしでいきなり本題に入るストレートで論理的な構成は簡潔でわかりやすく、とても完成度の高い文章です。カエサルについては後世多くの作家や芸術家が作品を残していますが、この時代のものはあまりなく、それはもしかしたらこれ以上のものはできなかったからかもしれません。
また、成果だけでなく苦労、逆境などにも触れている客観性など、2000年前のカエサルがこのような客観的な視点で動いていたことにも驚かされます。まるで、現代のよくできた社内報告書を読んでいるようで、自分もこういう文章を書きたいものだと思ったものです。
もちろんストーリーそのものもとにかく面白く、遠征したそれぞれの土地に昔から住んでいた部族とどう対峙したのか。その部族がどのような考えをもち、どう行動したのかといった戦闘にかかわることだけでなく、情報収集や食料調達の方法、外交、連合国家の切り崩し方などの政治的な要素、人心掌握、チームマネジメント、プラス・マイナス両面の理解に基づいた冷静な判断など、カエサルが勝つために行ってきた幅広い戦術が、簡潔にバランスよく詰め込まれています。
このことから、リーダーシップについて現在のビジネス界で語られている事柄が2000年前にすでに確立し、実行されていたということも読み解けます。
いま我々は情報技術革命、インターネット/Web 3.0、ブロックチェーン、メタバースなど1000年に一度とも言える大変革期の真っただ中にいます。私が身を置いているFinTech/デジタル証券はその変革の最先端をリードしていると言っても過言ではありません。
とかく変化だけに目がいってしまうのが人の常ではありますが、この2000年前に書かれた物語を読むことで、本当は何が変わっていき、何が変わらないかを考え、そのなかでの自分の価値観、立ち位置を考えてみるよい機会となったと感じています。
title/ガリア戦記
author/カエサル(訳 近山金次)
data/岩波文庫 1067円/364ページ
カエサル◎B.C.102年頃からA.C.44を生きたローマの政務官・文筆家。「ブルータス、お前もか」の引用句はよく知られる。また現在の太陽暦の前、1000年以上使われた「ユリウス暦」はカエサルが布告したもの。「ガリア戦記」は現在のフランスにあたるガリアでのローマ軍の遠征記録。カエサルの代表的な一冊。
こばやし・えいじ◎米ブラウン大学で数理経済学学位、シカゴ大学でMBA取得。ウォールストリートの複数の金融機関で4年勤務後、日本に帰国。マスターカード・ジャパン副社長などを経て2020年2月にSecuritizeに入社。カントリーヘッドに。日本セキュリティトークン協会理事就任。