パンデミック宣言が出された直後から、初めてプライベートジェット機を利用しようしようとする人たちはプライベートなフライトを利用するための最も簡単な方法であるチャーター機や、分割所有権のプライベートジェット機を提供する企業に群がり始めた。これらのビジネスモデルは航空機の購入や維持などに煩わされることなく、すぐにプライベートジェット機を利用できるようにする。チャーター機を提供する企業の中には、それまでプライベートジェット機を利用したことがなかった新規顧客からの予約が事業の50%以上を占めていると報告するところもある。
突然の新規顧客の殺到で、もっと低い利用率を想定していたニッチで資本集約的な業界の限りあるネットワークがこうした要望に対応するのは難しかった。米投資会社Berkshire Hathaway(バークシャー・ハサウェイ)の子会社NetJets(ネットジェッツ)など一部のプロバイダーは、既存の顧客に十分なサービスを提供するために新規チャーター便の販売を停止せざるを得なかったほどだ。
中古機の購入も資金力と意欲を持った新規参入者が自分たちのやり方で空を飛ぶための方法の1つだった。その結果、中古航空機の市場供給量は過去最低水準になるほど人気を博した。案の定、中古機の価格は高騰して売り手市場となり、費用のかかるメンテナンスをかなり要する法外な値段の古い航空機しか買えなくなった。
こうした不満により、初めて飛行機を購入する人の中には新品の飛行機を買うという最も高価な解決策を取る人もいた。チャーター機、分割所有権のプライベートジェット機、中古の航空機の市場が引く手あまたとなったように、航空機メーカーが受けた注文件数も膨れ上がり始めた。ビジネスジェット機「Cessna Citation(セスナサイテーション)」やターボプロップ機「King Air(キングエア)」などのプライベートジェット機を製造する米Textron Aviation(テキストロン・アビエーション)は2021年に、顧客の20%が初めて飛行機を所有する人たちだったと報告した。このような急激な関心の高まりにより、購入可能な機体の最短の納入枠が2025年以降に延びたメーカーもある。
市場の常識が極端に変化したときと同様、このような例外的な状況はずっとは続かない。破滅的とまではいかないが、過度に負荷がかかった市場から解放されるかたちでバブルは少し収まる兆しが見え始めた。
この変化のきっかけは株式・債券市場の低迷、インフレ、金利の上昇、コロナ不安の後退、景気後退の迫り来る脅威といったかたちでやってきた。プライベートジェット機の利用者はこれまでのように豊かさや安心感を感じていないのかもしれない。また、裁量的な支出であるため、比較的高価なプライベートジェット機の費用を削減またはなくすことは、少なくとも精神的に財政を補強する1つの方法だ。無条件でチャーター機から離れると、多くのプライベートジェット機初心者はエコノミークラスよりも上の座席に戻ることを選択した。