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2022.12.23

人材競争力5年連続世界1位のスイスが環境問題でも先頭に

チューリッヒのツーク市はスイスのイノベーションの中心地のひとつ/photo by Shutterstock.com


また、スイスは中心部の各都市がコミュニティ形成の場としてきちんと機能している一方、都市から車で20~40分ほどで自然豊かな山や湖に着くこともあり、自然と仕事の距離が近い点も魅力だという。

高津氏は、その象徴的な場面の1つとして、バーゼルのライン川を下る人々の様子を挙げた。一昔前は汚染された川であったライン川だが、改善に努めた人々の力により、現在は川下りの名所にもなっている。

高津氏は、オフィスに通勤する際に、自転車で川まで来て、川下りをして(中に服などの荷物を入れて膨らませ、浮き輪のようになるビニールの川下り用のバッグがある)、オフィスに行く人の例を挙げ、自然豊かで、交通の便がよく、人々が開放的なメンタリティを持ち合わせていると言うスイスの特徴について語った。スイスは、自然と共に生きる環境が整いQOLが高い点や、世界中から優秀な人材が集まる知の集積地であるといった点からも、経営と人間の在り方について考えていく場として適しているということだ。

日本企業のスイスを活用した環境問題への取り組み事例


ご紹介してきたように積極的にESG経営のイニシアチブを取るスイスだが、日本企業にも彼らと共に課題解決に取り組む企業がある。そこで、特に環境問題の解決に向かう両国のコラボレーション事例を松田氏にうかがった。

1)日立造船イノバによるスイスのごみ焼却発電施設の世界的メーカー Inova社買収 (2010年)


◎本年4月、スイスのごみ焼却発電施設内で水素の製造施設の建設を発表。来年春 に本格稼働予定。地方公共交通機関、自家用自動車などに活用。水素自動車の走行距離で約2000万キロ(約千台分)に相当。

◎本年5月、チューリヒの施設内に生物反応でメタンを生成するスイス初のバイオメタネーション設備を建設。水素生成の際に発生する下水ガスに含まれるCO2をバイオリアクターにてメタンに変換、ガスとして再利用。約2000世帯分に相当。

2)出光興産がクリーンテック系VC「Emerald Technologies Ventures」(スイス・チューリヒ)が運営するオープンイノベーションファンドへの出資を決定


◎温室効果ガス削減など、環境問題を中心に取り組むべく、欧州におけるオープンイノベーション推進拠点をスイスに設置

◎エネルギー効率の改善、CO2削減などの社会課題の解決に資する素材化学やクリーンテックなどにおけるイノベーション関連技術にフォーカス投資

3)アサヒビール(株)がスイス・EPFL Spin-off 「Embion Technologies」に約6億円の投資を決定(2021年)


◎酵素などの力により農業副産物を循環させ、価値の高い天然由来の機能性 成分として再活用。2025年までに約1億トンのCO2削減を目指す。

◎欧州(特に東欧)で稼働するビール工場から出る副産物を、酵素の力で、抗 菌剤を使用しない健康的な飼料に変換することを目指す。

4)横河電機が欧州の最新技術発掘、オープンイノベーション選定の拠点をSwitzerland Innovation Parkバーゼルに設立


◎バイオ事業に特化。微細藻類を活用したバイオ技術により、食品、医薬品、化粧品、バイオマテリアル、将来的にはバイオ燃料の開発を目指す。
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文=森若幸次郎 / John Kojiro Moriwaka

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