これについて、自民党のベテラン議員は「国民が、自分の財布からカネを出してでも、国を守ってくださいという気分になっていないからだろう」と語る。日本は公式的には戦後、一度も戦死者を出さずにここまで来た。戦争も、絶滅戦争や凄惨な地上戦の記憶がある欧州と異なり、沖縄など一部を除いた日本人の記憶にあるのは空襲と原爆だ。戦後、占領軍は日本語を禁じることもなかった。北朝鮮が年間60発以上も弾道ミサイルを発射し、中国のミサイルが日本の排他的経済水域(EEZ)内に着弾する事態になり、日本人もそれなりに不安を感じるようにはなってきた。でも、まだロシアによるウクライナ侵攻で、緊張している欧州諸国のような感覚にはなれないということだろう。
安倍晋三元首相は生前、防衛費を確保するために国債を発行する必要性を訴えていた。ベテラン議員は「安倍さんは、国民にまだ覚悟がないと読んでいたんだろう。それで増税と国債をセットにしようと考えていたと思う」と語る。
日本を巡る安全保障環境は厳しい。自衛隊OBは「今のまま、有事になれば、全力発揮できるのはせいぜい数カ月。いや、もっと短いかもしれない。武器弾薬が足りないのもそうだが、沖縄など南西諸島では航空機を守る掩体壕(バンカー)もない。何もできず、南西諸島を取られることもありうる」と話す。安全保障の専門家も「反撃能力はけしからんという意見ですが、反撃能力も備えなければ、国を守れなくなっている状況を真剣に理解すべきです」と語る。今年2月のロシアによるウクライナ侵攻では、英米に比べ、独仏両国はロシアの侵攻に対する予測がかなり甘かったとされる。情報関係筋の1人は「独仏はロシアに近すぎた。戦争になって欲しくないという願望が、客観的な情勢判断を狂わせた」と語る。
ベテラン議員は「日本のように巨大な大陸のそばにある国は、安全保障上、厳しい運命を背負っている。こうなったら、政府がもっとメディアに軍事情報を流して、現実を理解してもらう努力をした方がよいのかもしれない」と語った。
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