アップル ティム・クックCEO来日、滞在5日間で何を見たのか

井上リボン工業にて、Apple Watch Ultraのアルパインループが作られる工程を見学したティム・クック氏。井上精二氏の説明に何度も驚きの声をあげていた


井上氏は「アップルのものづくりはとても技術要件が高く、新しい技術もそれを速く実現することが求められる。でもその困難な道をアップルはいつも一緒に走ってくれる」のだと語る。アップルはものづくりの基準から、業務管理にいたるまでさまざまなノウハウを惜しみなく共有してくれるパートナーなのだと井上氏は笑みを浮かべた。「アップルとの仕事により当社の製造技術がレベルアップするだけでなく、企画提案からフォローアップまで一流の仕事の仕方を学ばせてもらっている。ライバルに対して当社の仕事が付加価値を生む要因にもなっていると思う」


クック氏、ジョズウィアック氏の訪問を受けた井上リボン工業の代表取締役社長井上博之氏(左)と常務取締役井上精二氏(右)

見学を終えたクック氏は井上リボン工業の技術力と、アップルが考えるサプライヤーとの理想的な関係性について次のようにコメントした。

「150名を超える井上リボン工業のスタッフの熱意とクラフツマンシップに感銘を受けた。今回の製品では初めて特殊な製造手法を採り入れてもらったが、井上リボン工業は持てる様々な技術を柔軟に使い分けて、丁寧にかつ迅速に挑戦を乗り越えてくれた。アップルはサプライヤーの方々と一緒に、良質なものづくりに取り組むために共創関係を築くことが大切と考えている。それが大きな革新を呼び込める唯一の道だからだ」


クック氏は井上リボン工業のスタッフたちと同じものづくりにかける情熱を確かめ合った

多くの仲間たちと再び出会い、前に進む決意を新たにした旅


クック氏の来日中、アップルは2018年からの5年間に渡り、1000社近い日本のサプライヤーネットワークに1000億ドル(約13兆7000億円)以上を投資してきたことを発表した。

しかし、アップルはこのことを伝えるためにたくさんの報道関係者を集めて、大がかりな記者会見を開くことはしなかった。それよりもクック氏は一緒にデバイスやサービスをつくるパートナーや、応援する学生・学童たちと直に触れ合う機会を持つことに多くの時間を割いた。

Twitterには大勢の日本のアップル社員たちと一緒に撮った写真も公開された。福井では記者から「今回の訪日の収穫」を聞かれたクック氏は、その1つに「アップルのチームと一緒に過ごせたこと」を挙げた。「たくさんの人に会い、すばらしい体験をした」。パンデミックを経て、オンラインだけでは過ごせない時間を共有できた喜びをクック氏は噛みしめているようだった。

井上リボン工業の訪問を終えて、次の目的地に向かおうとするクック氏を同社の若いスタッフたちが呼び止めて握手を求めた。「クックさんの手がとても大きくて温かかった」とうれしそうに笑うスタッフの方々もきっと、一緒にものづくりを探求する「仲間」がいることの頼もしさを実感したのだろう。

連載:デジタル・トレンド・ハンズオン
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編集=安井克至

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