ラグジュアリーの経営者が現状を「タイタニック号」に喩える理由

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今世紀に入ってからのラグジュアリー市場を作ってきた重要なプレイヤーの1社が米国の戦略コンサルタント企業・ベイン&カンパニーのミラノオフィスです。イタリアのハイエンド企業の団体・アルタガンマ財団と組み、市場動向や予測を毎年発表し、コンサルティングを行ってきました。

11月15日、その恒例の年次カンファレンスがありましたが、壇上でかなり「意味深」な展開がありました。以下、2つのエピソードをお伝えしましょう。

1つ目。ベイン&カンパニーのシニアパートナー、クラウディア・ダルピツィオの口から「今回も多くの企業の経営層の人たちにインタビューしたが、『今、我々はタイタニック号に乗っているのではないか?』と共通するコメントをもらった」という言葉がありました。複数の経営陣の人たちが同じ比喩を使ったのです。

同社のデータによればラグジュアリー市場はパンデミックに入った2020年に大きく落ち込み、2021年は回復へ向かいます。そして2022年は更なる伸長を示しています。最終的には、前年比19〜21%、2019年比においても8〜10%となり、2023年も同様に右肩上がりが見込まれています。

一部のお金がこうした市場に流れ込んできているのは、パンデミックになって以来、さまざまところで報道されてきました。ですからプラスの数字は予測を裏切るものではない。

しかしながら世界各地で地政学リスクが生じ、経済が下降線になる。こうしたメディアのニュースを連日のように目にしています。また、ラグジュアリー市場で3割以上のシェアをもつ中国市場では政府が富裕層へ盛んに締め付けへの牽制球を送っており、かつコロナ対策はあいかわらず不透明。先がなおさら読めない状況です。実際、年次カンファレンスでも「中国次第だが……」という条件付きの予想が何度もでてきました。

「航海中のルートには氷山があるにも関わらず、それを知らないがごとくタイタニック号の船内で豪華なパーティを繰り広げているのではないか?」という懸念がハイエンド企業のCEOの頭をかすめないわけがない。だが、目の前にある勢いのある数字をみると、これからも続く成長のための投資はGOと判断するしかない。歯切れが悪くなるのは致し方ないと思わせる光景です。
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文=安西洋之(前半)、中野香織(後半)

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