80億ドル(約1兆900億円)にのぼる損失を出したとされるこの騒動を、仮想通貨の終わりを告げるものと受け止めたからだ。ビットコインが登場してから、彼らはずっとこの終焉を予想してきたし、待ち望んでもきた。
だが、FTXの破綻はおそらくそれとは反対の結果をもたらすだろう。とくに規制当局がしかるべき対応をとることで、仮想通貨業界に新たな活力、新たな現実主義が吹き込まれると考えられるからだ。一方で、業界と規制当局が今後待ち受けるさらに大きな危険ときちんと向かい合わなければ、仮想通貨は世界の金融安定にとって想像を絶するほど大きな脅威になりかねない。
FTXの破綻後の状況は、仮想通貨業界全体の崩壊につながると予想あるいは期待していた人たちにとっては、残念な展開になっている。ここで指摘しておかないといけないのは、FTXは仮想通貨の取引所やヘッジファンドだったのであり、仮想通貨の開発や発行をする企業ではなかったという点だ。FTXの破綻によって、たしかにイーサリアムやビットコインといった代表的な仮想通貨の相場は大きな打撃を受けたが、その後は回復基調にある。
FTXの破綻によってマーケット全体に余波が広がるのではないかと心配する人も多くいたが、それも杞憂に終わったようだ。
仮想通貨の果たす機能
仮想通貨が存在し続けていることに、反対派は怒りを募らせている。彼らは仮想通貨について、「そこには『そこ』がない(There is no there there)」、つまり、取引される実物がなく、コンピューター画面上の光の明滅にすぎないとよく言う。仮想通貨の人気を、1630年代のオランダで起きたチューリップへの投機熱にたとえる人もいる。
だが、こうした批判は仮想通貨の重要な点を見落としている。仮想通貨ブームは、米連邦準備制度理事会(FRB)など中央銀行がインフレの現実化に直面するのを拒んだことに端を発している。実際、過去のチャートをたどれば、金融当局がインフレの脅威に対応し始めると、ビットコインなどの価格は下落基調に転じたのがわかるはずだ。
ここから、仮想通貨の真の価値がどこにあるのかが浮き彫りになる。それは、政策立案者や中央銀行による誤った判断や決定に対するヘッジ(リスク回避)機能である。金(ゴールド)の代わりにはならないとしても、仮想通貨は、規制当局や政治よる逆風にさらされるほかの投資や通貨に対するヘッジになるものなのだ。