井上成美と野中広務が泣くだろう。元首相秘書官がみた安保3文書

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国家安全保障戦略など安保関連3文書が16日の閣議で決まった。岸田文雄内閣は今、2023年度から27年度まで5年間の防衛費を約43兆円に増やすとした方針を巡って大揺れだ。財源のなかで、2027年度に年1兆円強を増税で確保するとしたからだ。高市早苗経済安全保障担当相は10日、ツイッターに「賃上げマインドを冷やす発言を、このタイミングで発信した首相の真意が理解できない」と書き込んだ。萩生田光一政調会長は11日、国債の償還費の一部を財源にする案に触れた。自民党の佐藤正久元外務副大臣は11日のフジテレビ番組で「防衛力の中身を説明する前に増税というのは順番が違う」と語った。岸田首相は13日、自民党役員会で「今を生きる国民が自らの責任としてしっかりその重みを背負って対応すべきものである」と語ったが、後に「今を生きる我々が自らの責任として」と修正するなど、てんやわんやの状況で、政権の危機にもつながりかねない状況だ。

何がいけなかったのか。小渕恵三内閣で首相秘書官を務めた米村敏朗元内閣危機管理監は「安全保障は国家の危機管理の最大テーマ。その主役は国民だ。今回、増税云々の問題の前に、これからのわが国の安全保障のあり方について、その想像と準備を国民にわかりやすく、具体的に説明して理解を得ることが大切だ」と語る。米村氏は岸田氏の対応について「戦前の大きな過ちの原因の一つは、国家としての統一された基本戦略を欠いたまま、その場その場の状況への対処に終始し、あの無謀な戦争に迷い混んでしまった。岸田総理は、その状況主義に陥っていないだろうか」とも指摘する。まさに「おまいう(お前が言うな)」状態に陥っているというわけだ。

岸田首相は昨秋の就任時から、防衛力の抜本的強化を掲げてきた。今年2月にロシアがウクライナに侵攻し、北大西洋条約機構(NATO)加盟国が次々に防衛費のGDP(国内総生産)比2%を掲げると、その流れに乗り、防衛費の増額が一人歩きを始めた。「防衛費が2倍になる」と聞いた防衛省・自衛隊や専門家、メディアなどは「こんな装備が良い」「これも必要だ」という議論に走った。米村氏は「そもそも前提となる、米軍はどう動くのか、そして自衛隊はどう動くのかなどの戦略についてどこまで具体的に議論され、国民に示されただろうか。状況主義の悲劇は決して繰り返してはいけない。それを避ける唯一の方法は、国民への説明と国民の理解だ」と語る。
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文=牧野愛博

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