このシリーズに関してコメントをしないと決めた英王室の決断は、組織の危機的状態に対応する最高経営責任者(CEO)やその部下が考えなければならない問い(危機的状況について何かコメントすべきか、またその場合はいつ、どのようにコメントすればよいか)に注目を集めるものだ。
沈黙を守るリスク
英王室の直近の広報戦略がビジネスの世界でうまく行くとは思えない。ビジネス界では、企業や組織はさらに大きな責任を問われ、より厳重に監視され、その言動(あるいは沈黙を守ることや何も行動しないこと)に対してより大きなリスクや結果を負うことになる。
危機報道に関する一つの考え方として、沈黙は他者からの疑いを暗に認めている、あるいはそれに賛成していると解釈されるというものがある。会社が反論を遅らせれば遅らせるほど、疑いは世間一般の通念となる可能性が高まり、その後否定することはさらに難しくなる。
企業が危機に対し沈黙を守ることにすれば、世間や消費者、投資家から非難の声が巻き起こり、危機は長引くか悪化する可能性がある。
例えばアディダスは、「イェ」と改名したラッパーのカニエ・ウェストの人種差別的かつ反ユダヤ的なコメントからすぐに距離を取らなかったことで批判された。同社は最終的にカニエを非難し、カニエとの提携を打ち切ることを発表している。
英王室の異なるアプローチ
サセックス公爵夫妻のドキュメンタリーに関する英王室の沈黙は、他の危機的状況に対する対応と異なっている。
ニュースサイト「ニューズウィーク」は先月、慈善団体の創設者がバッキンガム宮殿で、ウィリアム王子の名付け親である女性との「失礼な」会話で自身の出自について何度も質問されたとソーシャルメディアへの投稿で明かしたことを報じた。
「英王室は、こうしたコメントが『許されないもの』で、(この発言を行なったレディ・スーザン・)ハッシーが『自身の名誉上の役割から即座に退いた』ことを発表した」と同サイトは報じている。
また英紙ガーディアンは、故エリザベス女王が2021年に、「サセックス公爵夫妻による人種差別の告発という破壊的な訴えから一線を引こうと、この問題は王室で『プライベートに』対応すると述べた」と報じている。
同紙は「女王は、人種差別の疑いに対する『懸念』と、公務に就く王室メンバーとしての生活を夫妻が実際にどれほど困難に感じていたかを知ったことによる悲しみを表明した。ただ女王は、一部の出来事に関する記憶は異なっていると述べた」と記している。