「自然の力」がウクライナのミサイルによるロシア巡洋艦モスクワ撃沈を助けた

ロシア黒海艦隊の巡洋艦モスクワ(Getty Images)

ウクライナ海軍の対艦ミサイル装置がロシア黒海艦隊の巡洋艦モスクワを4月13日に沈没させて以来、さまざまな噂が流れた。

噂の多くは、大型の艦船も飛行機も持たない海軍が、巨大かつ重武装の軍艦や戦闘機を持つ海軍を倒した理由を説明しようとするものだった。中にはウクライナ軍がモスクワを撃沈するために外国の支援を要請したという仮定に立つ噂もあった。

ウクライナ海軍のトルコ製ドローンであるバイラクタルTB2が、オデーサの南140キロメートルにいたモスクワにそっと近づき、巡航ミサイル、ネプチューンのために正確な位置を特定したのか? 米国海軍の高高度を飛ぶボーイングP-8哨戒機が、重要な位置情報を中継したのか?

どちらでもなさそうだ。Ukrainska Pravdaに掲載された驚きの新情報によると、対艦巡航ミサイルのネプチューンは、モスクワをほぼ自力で発見し命中させた。

ミサイル装置が実際に受けた支援は、自然によるものだった。「逆転層」と呼ばれる大気現象が、レーダー波の通り道のようなものを作り、水平線の曲面に沿って往復することが可能になった。

「4月13日、思いがけず自然がウクライナを助けてくれた」とUkrainska Pravdaのローマン・ロマニウク記者は書いた。「ネプチューンのオペレーターは、通常のレーダーではモスクワに到達できなかったはずだが、まさにそれが実際に起きた」

4月13日、ネプチューン装置のオペレーターは、レーダー画面でオデーサ南に大型艦船を捕らえた。「黒海のこの領域であの大きさの物体でありうるものは唯一つ、ロシア連邦黒海艦隊の旗艦である巡洋艦モスクワだった」とロマニウク記者は書いた。


対艦巡航ミサイルのネプチューン(UKRAINIAN DEFENSE MINISTRY)

「しかし、普通のレーダーがどうやって水平線を超えるそんな遠方の標的を映しだしたのだろか?」とロマニウクはいう。「ウクライナのロケット技術者たちは確信した。自然が自分たちの側に味方してくれたことを」

逆転層とは、暖気が下、寒気が上という通常の温度状態が替わる空気の境界層だ。逆転層の上では、空気が逆転層の下よりも暖かくなる。

逆転は地表の数キロメートルから数十キロメートル上空で起きることもあるが、かなり厚い。逆転層の数百、数千メートル上では大気が通常の温度分布に戻り、高くなるほど冷たくなる。

逆転層を、目に見えない天井と考えるとよい。物体は温度が突然変化する高度付近に集まりやすい。雲や大気汚染のように。電磁波も同じだ。

ちょうどぴったりの場所と高度で逆転が起きるような天候のとき、通常なら水平線(50~80キロメートル先)までしか見えないレーダーが、突如水平線の向こう側を見ることができる。それは、逆転によってレーダー波が地球の曲面に沿って進行するからだ。

このような状況を予測することは難しい。だからウクライナ軍のレーダーオペレーターが、4月の午後、レーダー画面にモスクワが初めて現れたのを見た時、困惑したのも当然だった。

しかし困惑も長くは続かなかった。ロマニウクはこう説明した。「数分間の大きな躊躇と協議の後、彼は「発射」命令を出し、2発のミサイルがロシア軍巡洋艦に向かって飛んでいった」

forbes.com 原文

翻訳=高橋信夫

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