同社は、慶應大の遺伝子制御研究部門の研究者だった大槻雄士(おおつき・ゆうじ)が率いる。同部門教授だった佐谷秀行氏、創薬研究に従事する一方、複数のスタートアップ経験も有する夏目徹氏など、卓越した人物が取締役に名を連ね、今期待されている創薬企業だ。
Forbes JAPANが10月に開催した、アカデミア起業家のピッチイベント「ACADEMIA ENTREPRENEUR SUMMIT2022」では最優秀賞を獲得した。
なぜ起業に踏み切ったのか、そして苦労も多いという資金調達をどのように進めているのか、CEOの大槻に聞いた。
副作用の少ない治療薬を開発
──大槻さんがビジネスの道に進んだ理由を教えてください。
もともとは呼吸器外科医でした。研究職に移ったのは、がんを少しでも早く治せる病気にするためです。
手術が成功しても一定の割合で再発や転移に苦しむ患者さんがいる。そうした人たちを助けるには、今ある手持ちのカード(治療法)だけでは足りない。カードを増やすために研究を重ね、実際に治療に使えそうな要素をみつけました。
しかし、いざ薬を創るとなると研究開発費をはじめ、足りないものが山のようにあった。やはりお金も稼ぐスタートアップを創るしかないと考え、起業しました。
──開発中の薬はどのようなものですか。
体に負担をかけず、がん細胞を死滅させる薬です。酸化ストレスによって細胞の死を引き起こす「フェロトーシス」と呼ばれる作用を利用しています。
これまで治せなかったアンメットメディカルニーズの高いがんにも効いて、かつ妊孕性(妊娠する力)を損なわず、体重減少さえも起こさない安全性の高さが特徴です。
まずは来年から、トリプルネガティブ(ホルモン療法の適応がなく、既存の抗がん剤が効きにくい)乳がんに対する薬の治験を開始し、順次、他の臓器のがんにも適応を拡大していきます。
開発手法は「ドラッグリポジショニング」というものを用いています。すでに他の病気で使われている薬を、新しく別の病気に応用するという手法です。