小暮:この秋冬は「遥か遠くの地、ノルディック」がテーマと聞いています。エトロの象徴であるペイズリーが大胆に使われ、「人生の冒険に立ち向かう若者たちの旅」をイメージしているそうですよ。
森岡:このコートに、ペイズリーは使われていませんが、ウール、アルパカなどがミックスされた素材には、さまざまな色が織り込まれています。ペイズリーの柄を子細に見るといろいろな色がプリントに使われているでしょう。それと同じ考え方がこの素材から伝わってきます。
小暮:「ネップツイード」とよく呼ばれる凝った素材ですね。私も大好きなツイード。それに裏地が大胆。インパクトのある蛍光オレンジを太いボーダー状に配しています。
森岡:キーンのこういうセンスが僕は大好き。コートを脱いだときや裏側が少しだけ見えたとき、絶対に目立ちます(笑)。
小暮:私が以前買ったスーツは、表地はオーソドックスなグレンチェックのウールでしたが、裏地がブルー系のペイズリーで、チラリと見える裏地をよく褒め
られました。
森岡:外見は普通に見えて、中身にこだわる。昔、江戸っ子は、表地は地味を装いながら、裏地にぜいを尽くしたといわれています。案外、日本人とイタリア人はセンスが似ているのかもしれませんね。
小暮:私はこのオレンジを見て、アウトドアウェアや消防士などの服に使われるエマージェンシーオレンジを思い出しました。どんなシーンでもすぐに見つけられるように、そうした服ではオレンジが使われる。
森岡:蛍光のオレンジですから、一度見ただけで目に焼きつきますよ、この色は。
小暮:さすが、キーン。自分の作品を絶対に覚えておいてほしいと、この色を使ったのでは。もちろん冗談ですが(笑)。
森岡:エトロの新しいディレクターであるマルコ・デ・ヴィンチェンツォにも期待していますが、まだ大好きなキーンのセンスを味わっていたい。そんなエトロらしいコートではないでしょうか。
森岡 弘◎『メンズクラブ』にてファッションエディターの修業を積んだ後、1996年に独立。グローブを設立し、広告、雑誌、タレント、文化人、政治家、実業家などのスタイリングを行う。ファッションを中心に活躍の場を広げ、現在に至る。
小暮昌弘◎1957年生まれ。埼玉県出身。法政大学卒業。82年、婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に入社。83年から『メンズクラブ』編集部へ。2006年から07年まで『メンズクラブ』編集長。09年よりフリーランスの編集者に。