一方、男子サッカーのワールドカップが現在、カタールで開催されている。資金豊富なカタールは、壮大なサッカースタジアムや高速道路、ホテルの建設にあたり、数十万人の貧しい移民労働者を搾取した。その大部分は、南アジアとアフリカから来た人たちだ。
残念ながら、五輪でもワールドカップでも、国際的なスポーツ団体は、そうした人権侵害に対して断固とした行動をとっていない。
それどころか、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長と、国際サッカー連盟(FIFA)のジャンニ・インファンティーノ会長は、時代遅れの方針に頼り、国際的なスポーツ大会は政治から切り離されるべきだと主張している。
五輪にも出場した中国のテニス選手、ポン・シュアイ(彭帥)は2021年11月2日、中国の政府高官にセクシャルハラスメントを受けたとSNSで訴えた。中国に国際的な関心が高まり、習近平国家主席が挑戦的な態度を強めていたなかでのことだ。投稿は直後に削除され、ポン選手は数週間にわたって消息不明になり、安否が気遣われた。IOCは11月21日、ポン選手とバッハ会長のビデオ通話の場を設け、ポン選手はその通話のなかで、自分は安全で元気だと話した。
その後、五輪開幕を数日後に控えた2022年2月5日、バッハ会長は中国当局と連携し、徹底して演出された公開行事をお膳立てした。その際には、ポン選手が一時的に姿を現わし、性的関係の強要を改めて否定し、現役引退も表明した。五輪閉幕以来、ポン選手は公の場に登場しておらず、バッハ会長は沈黙を保っている。
世界の注目はいま、2022年ワールドカップの開催国であるカタールに移っている。ここでも開催国は、深刻な人権問題から世の関心をそらそうと躍起になっている。そうした問題の一例が、世界水準のスタジアム8つ、長大な道路、新しいホテルなどの施設の建設に貢献した数十万人の移民労働者に対する不当な扱いだ。
そうした労働者の大半は、インド、バングラデシュ、ネパールから集められた。その圧倒的大多数は、斡旋料を支払わなければならず、その額が1年分の賃金になることも珍しくない。つまり、負債を返済し終えるまでは、実質的には奴隷労働者として働くということだ。
そうした労働者は、ドーハに到着すると混みあった寮に詰めこまれ、焼けつくような暑さのなかで長時間働くことを強いられた。そして、あまりにも頻繁に、危険な労働環境下に置かれた。