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2023.01.10

化学メーカーがいま、食の課題解決に挑む理由 〜三菱ケミカルグループがオープンイノベーションで生み出す代替肉の可能性

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人、社会、地球がサステナブルであるために、食の課題解決は必須だ。三菱ケミカルグループ(以下、MCG)は日本を代表する化学メーカーとしてのリソースをもとに、食品関連事業にも長年取り組んできた。そんなMCGグループがいまチャレンジしているのは、オープンイノベーションで挑む代替肉市場だ。今回は事業開発のキーマン2名に、食の課題解決の可能性と取り組み内容について聞いていく。


サステナブルな社会へと転換するために、大きな課題のひとつとされている"食"。その解決に向けて、なかでも注目されているのが、大豆などを原料に使用した植物性代替肉である。

地球温暖化や世界的な人口増加による「タンパク質危機」が社会課題となっているなか、植物由来の代替肉は環境負荷の少ないタンパク源である。新たな食の選択肢となり、持続可能な食品供給や気候変動の緩和に貢献すると期待されている。ここ数年、スタートアップ企業による代替肉の研究開発がグローバルに進み、急成長している市場だ。

MCGグループは、40年にわたり培ってきた食品素材開発技術とスタートアップ企業のフードテックを、オープンイノベーションで掛け合わせることで、植物性代替肉の風味や旨味をさらに向上させ、同社グループがターゲット領域とする食品市場での事業拡大を狙う。

3Dプリンティング、ヘルスケアの事業開発を経てフード・ソリューション事業に転じた三菱ケミカル株式会社 ライフソリューション事業部 海老原真道(以下、海老原)と、グローバルにコーポレート・ベンチャー・キャピタル(以下、CVC)を担う三菱ケミカルグループ㈱ ベンチャー部 浦木史子(以下、浦木)に、その革新的な挑戦について詳しく聞いた。

植物性代替肉に役立つ技術の原点は、ロングセラーの乳化剤「シュガーエステル」


──日本を代表する総合化学メーカーとして知られるMCGグループですが、食品市場とはどのように関わってきたのでしょうか。乳化剤事業について教えてください。

海老原:日本ではおよそ40年前からライフスタイルの変化とともに、食のあり方が多様化してきました。加工食品や調理済み食品を利用したり、また、料理をつくってすぐ食べるのではなく、つくり置きにしたり、時間が経ってから食べることも多くなりました。

しかし、炒めものや焼きものなど調理してから時間が経ってしまうと水分と油分に分離してしまい、おいしさが損なわれてしまいます。水や油など、本来混ざり合わないものが混ざり合った状態のことを乳化と言いますが、食品成分が均一に混ざっていることが、おいしさや食感の重要なポイントになります。

乳化剤は、水、油など、混ぜたいものの各々のインターフェイス(界面)をコントロールしてなじませ、食品成分が混ざった状態をキープするものです。当社は、ショ糖と植物由来の脂肪酸からつくられる乳化剤「リョートー™シュガーエステル」を40年近く手がけ、幅広いラインナップをご提供しています。

分散安定性の高さなど優れた乳化機能に加え、お客様のニーズに応じて組成や構造を最適化する技術に強みがあり、食品の品質や保存安定性の向上に貢献します。缶コーヒーや、カレーのルウ、ホイップクリームなど、さまざまな食品にご採用いただいており、おかげさまで「シュガーエステル」は、グローバルでも長らくシェア1位となっています。

この「シュガーエステル」の技術を活用して、今、取り組んでいるのが植物性代替肉の開発です。市場の成長性、自社のコア技術の活用、サステナビリティへの貢献の3つの観点から事業テーマとして「代替タンパク」に着目しリサーチを進めていく中で、植物性代替肉は動物性の食肉に比べると、どうしても食感にパサつきがあり、風味や旨味にも向上の余地があることがわかりました。

私たちは、そうした課題の要因を、植物肉と油(脂)のインターフェイスがうまくかみ合っていないことだと分析しました。そこで「シュガーエステル」の技術を基盤に「代替脂肪」を開発・活用することで、植物肉の可能性を拡げる挑戦を開始したのです。


海老原真道 三菱ケミカル ライフソリューション事業部長

スタートアップと生み出すイノベーション


──浦木様は「ベンチャー部」でどのような業務を行っており、どのように植物性代替肉事業に関わっているのでしょうか。

浦木:私自身のバックグラウンドを少しご説明しますと、前社で営業としてさまざまな業界を体験したあと、2008年にスタートアップと大企業の力を合わせてイノベーションを起こす「CVC」という仕組みに出会いました。企業内でリスクを低減しつつ新規事業を展開するというこの仕組みこそが、未来をつくるのだと確信したのです。

そして、16年に当社に入社しました。18年に投資実務を行う100%子会社、Diamond Edge Ventures社をシリコンバレーに設立してMCGグループとしてのコーポレートベンチャー活動を本格化し、21年には代替タンパク、プラスチックリサイクル、食品ロス防止というサステナブルなテーマに焦点を当てたパートナーシッププログラムを開催しました。今年度はデジタルヘルスケアソリューションの創出を目指したプログラムを展開しています。

現時点で250社のスタートアップと関わり、9社に投資を決定しています。当社グループがパートナーとして選ばれるためには、単に協業に留まるのではなく、スタートアップの成長を支援しバリューアップさせていくことが非常に大事です。基本的にはベンチャー部はその仕掛けや場づくりを担い、実際の展開は事業部門が手がけて連携する形をとっています。そうした活動を進めるなかで出会いがあったのが、大豆由来の革新的なタンパク製造技術をもった、DAIZ社です。

──DAIZ社との協業を決めた理由について、教えてください。

浦木:肉は主にたんぱく質と脂質で構成されています。DAIZ社には味や機能性を自在にコントロールして大豆の旨味や栄養価を増大させる発芽技術と肉のような食感・弾力を再現する加工技術があり、MCGグループには乳化剤をもとにした食品素材技術のアセットがある。実際に話してみるとお互いに、補完的な立ち位置にあり、お互いにリスペクトの念をもちながら協業できることがわかりました。2社とも、既存の食品の概念を変革し、新たな価値づくりに意欲的です。



浦木史子 三菱ケミカルグループ ベンチャー部長

海老原:DAIZ社との協業によって新たなアプローチが可能になり、今後の展開が楽しみです。新たな価値創出に向けてトライ&ラーンを重ねつつもスピード感をもって開発に臨めるよう体制を強化し、代替肉の専任チームを組織しました。

風味・旨味のさらなる向上はさることながら、健康に良くないとされる飽和脂肪酸を低減する、油脂の総量を少なくしカロリーを抑えるなど、健康面からも付加価値をもたらせるよう取り組んでいるところです。おいしさと健康を両立した新たな選択肢をお届けできるようイノベーションを加速していきます。

SDGs視点の疑問:食物はこれまで通りでよいのか


──近い将来、代替肉は大きなビジネスにつながるのでしょうか?

浦木:15年にシリコンバレーでインポッシブル・フーズのハンバーグを味わったときに、カードがひっくり返った感覚がありました。従来とまったく違う、価値観が変わる代替肉の味を実現していたからです。

その一方で更なる改善を要する課題も残っていましたが、自社技術とベンチャーの技術を組み合わせることにより、何かしらのブレイクスルーを実現できるという確信にも似た予感はありました。

海老原:水と油が、植物肉と油(脂)になったとしても、2つのインターフェイスを馴じませるという技術的なテーマは変わりません。この問題を解決しなくてはならない理由は、SDGsが叫ばれる社会となり、多くの人々が「食物はこれまで通りでよいのか」という疑問をもち始めたからです。MCGグループは、サイエンスの立場から解決に取り組み、持続可能な社会に貢献しようとしているのです。

ただ「おいしさ」には、世界共通の絶対基準などありません。そこが難しいのです。単純なところでは、日本では大豆由来の代替肉が多いのですが、大豆を食べなれていない欧米ではエンドウ豆のほうが好まれるなどの傾向もあります。そうした市場のニーズに技術で応え、今後のゲームチェンジをMCGグループから起こしていきたいと思っています。

浦木:私はビジネスを考えるとき、娘たちの世代に、さらにその先の世代にどんな時代を贈ることができるのかと考えます。環境を大切にして、持続可能な未来を迎え、誰もがおいしく食品を食べられる幸せな社会になっていてほしい、それが私の願いです。代替肉はそのための新たな文化のひとつとして捉えるべきではないかと思います。そのための貢献を、さまざまなスタートアップ/ベンチャーとの協業とMCGグループの技術で、実現していきたいですね。


植物肉開発パズルの最後の1ピースを埋めるための協業


持続可能でおいしい植物肉を実現するために協業したDAIZ社。その取締役研究開発部長を務める落合孝次に聞いた。

「私たちDAIZは、五大栄養素を含みながら、動物性原料を使わずに、風味や呈味(甘味、塩味、酸味、苦味、うま味など味を感じさせる原因となる基本の味)、食感の違和感がない植物肉の開発を行ってきましたが、おいしさを追求した、その開発は大きな壁に突き当たっていました。動物肉特有の食欲をそそるジューシー感(脂感)が、どうしても出せない。世界中の植物油を試しても、どれも融点が低く、違和感が出てしまうのです」

そのとき出会ったのが、MCGグループだった。

「MCGグループの油脂面の開発技術と、私たちのタンパク技術があれば、大きなブレイクスルーを起こせると感じました。『ジューシー感は、植物肉開発のパズルの最後の1ピースだ』と熱弁する私たちに、MCGグループは『低融点植物油の結晶化技術で油の融点を変える』というソリューションを提示してくれました。他にもMCGグループがもつエマルジョン技術は、私たちが取り組んできた代替乳開発を加速させてくれました」

地球規模では現状、牛、豚、鶏だけでも3億トン超の動物肉が生産されている。

「2社で進めるプラントベースフード(植物性食品)の開発の目的は、タンパクと油脂を動物性から植物性に置き換えることで、地球環境や食料の問題を解決していくこと。そのためにはおいしさと栄養を徹底研究する必要があります。互いの技術を生かして品質を向上させ多くの人々に利用いただきたい。MCGグループとともにサステナブルな世界の実現に貢献していきたいと思います」

 
落合孝次 DAIZ 取締役研究開発部長

三菱ケミカルグループ
https://www.mitsubishichem-hd.co.jp/


海老原真道(えびはら・しんどう)◎2004年入社。3Dプリンティング事業開発を経て、21年ヘルスケアソリューションユニット長、22年7月より現職。

浦木史子(うらき・ふみこ)◎BASFジャパン、BASF Venture Capitalを経て、2016年に三菱ケミカルホールディングス(現三菱ケミカルグループ)に入社。アメリカでCVC子会社Diamond Edge Venturesを設立。

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Promoted by 三菱ケミカルグループ | text by Ryoichi Shimizu | photographs by Shuji Goto | edit by Akio Takashiro

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