世界1位の売り上げ額となった日本発のNFTコレクション、周到な戦略はさらに大きな目的のために練られていた。
北野唯我(以下、北野):4月に販売したNFTコレクション「新星ギャルバース」の大成功は、事前に予測できましたか?
草野絵美(以下、草野):世界一の取引総額になるとまでは予想しなかったです。販売前、海外へピッチに行っても、最初は門前払いでしたから。でも、アーティストの大平彩華の絵を見た途端に「これはいい。ちょっと話を聞きたい」とよく言われました。
最強のチームが揃ったので、私はメンバーたちの思いを伝える役に徹しようと海外のインフルエンサーやコミュニティに「日本のギャルカルチャーが、現代人をどうエンパワーメントできるか」といった話を100回ぐらいしました。自分たちの美学がどう伝わるか意識しながら対話することで、コンセプトが磨かれていったんです。そうやって準備したので、売れる手応えはありました。
新星ギャルバース アーティストの大平彩華とタッグを組み、髪形や服装、目の色や形などがそれぞれ違う「ギャル」イラストを、AI技術を駆使して8888体生成したNFTコレクション。22年4月14日にNFTマーケットプレイス「OpenSea」上で発行、世界販売ランキングで一時的に1位を獲得。発売から3日後には二次流通を含めて取引額が3600ETH(イーサリアム。当時のレートで13億円以上)に達した。
北野:何かを成し遂げたい軸がないと100回のプレゼンはできません。そこまで強くさせたものは?
草野:まず、自分が作品を愛しているから。そして、その世界観で、より大きなアニメ映画をつくるという夢があるからです。
よく、私たちを「一夜にして2億円を売り抜けた」と誤解する人もいますが、そうではなくて、アニメをつくるためのお金を調達して、そこからクリエイターにちゃんとお給料を払い、二次流通の利益を使って、さらに新しいものをつくる仕組みを回していきたいんです。私はNFTのことを、クリエイターがさらに大きなものをつくる「資金調達の手段」のひとつだととらえています。
北野:草野さんの長男「Zombie Zoo Keeper」(2021年「Forbes JAPAN 100」を当時8歳で受賞したNFTクリエイター)の作品は、すでにアニメ化が決まりましたね。
草野:そちらは東映アニメーションの制作で進めていますが、ギャルバースはいまスタジオと交渉しているところです。アニメというIP(知的財産)に育てるのは、本当に大きなゴール。それまで、ギャルバースのホルダー(購入者)に対して、コンテンツを定期的に出していく計画です。
VTuber化、バーチャル空間の開発、ファンクショナルなNFTなども追加で出そうとしています。販売した後、どうしたらファンとのエンゲージメントが高まるかという正解が出ていないのがNFTなので、常に情報をアップデートして新しいことをやらなくてはいけません。
北野:クリエイターは、コミュニティやテクノロジーに今後どう向き合う必要があると思いますか?
草野:私は、クリエイターの作家性を大切にしてもらいたい思いが強いので、コミュニティは「活動をサポートしてくれる重要な存在」です。NFTという技術があることにより、ファンの方とギャラリーや事務所などを通さずにつながれて、直接の対価を得られるようになります。二次流通にちゃんとロイヤルティが入るのもNFTの画期的なところです。