インタビューを終えて──優れた起業家が備えるべき、ひとつの条件
NFTを使った資金調達を世界で成功させて走り出した「クリエイティブな経営チーム」。話を聞けば聞くほど、この表現がぴったりだと私は思った。草野絵美氏は、経営者でありプロデューサー。そう言い切れる。
今春、NFTコレクション「新星ギャルバース」がNFTマーケットプレイス「OpenSea」の24時間ランキングで世界1位を獲得した。ただこれは単純に「デジタルアートが売れた」という話ではない。ビジネスの視点で見ると、完全にグローバルでのファイナンスであり、資金調達である。なぜそう言えるのか?
まずは「資金の使い道が明かされている」ことだ。アニメをつくる、そのための資金に回されることが最初から明示されている。
2つ目は「プロダクトの可能性」に投資家たちが心を動かされたからだ。彼女はこう語っていた。「最初はこのプロジェクトに渋い反応をしていた人たちも、実際のキャラクターの絵を見ると前向きになった。これはいいね! と」。つまり、それだけギャルバースのクリエイティブを担当した大平彩華氏の作品には力があった。
人は、自分で見たことがないものを頭で想像するのは難しい。だが、それを圧倒的な作品力、いうならばプロダクトの可能性でうならせたわけだ。
3つ目は「経営チーム」。このプロジェクトのメンバーは日本人2人、オーストラリア人2人。しかもそれぞれの役割が違う。起業家でプロデューサー(CEO)的な存在が草野氏、クリエイティブCPO的な存在が大平氏。技術に詳しいCTO的存在がデヴィン・マンキューソ氏。最後はPRとコミュニティに精通するCMO的存在としてのジャック・ボールドウィン氏。まさにグローバルな経営チームではないだろうか?
そして、これこそがまさに草野氏がNFTプロデューサーであり、起業家である理由だと私は感じた。つまり「自分より優秀な人を自分の周りに置くことができる」という、優れた経営者がもつ素養を備えているのだ。実際に草野氏は成功した理由に「チームが最強だった。自分がいちばん弱い」と言っている。
さらにもうひとつ。彼女の強みは「最新技術の使いどころ」だろう。NFT自体は圧倒的な可能性を秘めている技術だが、クラウドファンディング的であり、かつグローバルなマーケットにつながっている。そしてアートやコンテンツとも相性がとてもいい。これらすべてを組み合わせ、新たな可能性をもった技術を上手に料理した彼女から私たちが学ぶことはとてつもなく多い。
草野絵美◎1990年、東京都生まれ。Fictionera代表取締役。高校時代からフォトグラファー、ライターとして活動。2011年、慶應義塾大学環境情報学部在学中に起業を経験。14年、音楽ユニット「Satellite Young」を結成。17年、米国テキサス州の祭典「SXSW」に出演。19年より東京藝術大学非常勤講師。同年「SIGGRAPH Asia」Art Galleryでメディアアート作品「Instababy Generator」が入賞。著書に『親子で知的好奇心を伸ばす ネオ子育て』、共著に『ミライの科学にふれてみよう おうちじっけん号』がある。
北野唯我◎1987年、兵庫県生まれ。作家、ワンキャリア取締役CSO。神戸大学経営学部卒業。博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。ボストンコンサルティンググループを経て、2016年、ワンキャリアに参画。子会社の代表取締役、社外IT企業の戦略顧問などを兼務し、20年1月から現職。著書『転職の思考法』『天才を殺す凡人』『内定者への手紙』ほか。近著は『仕事の教科書』。