つまり、機能性はできるだけ滑らかな方がユーザーは、使ってくれる。一方で、意味性になると適度な摩擦が物語に変わるので、ユーザーが一緒に克服するストーリーが生まれるわけです。これらの話をまとめると、「世界観に対して一緒に克服する物語に、どう余白をつけるか?」という話になります。
意味生成時代の大企業のあり方とは?
藤井:画像生成系のAIにいち早く取り組んでいらっしゃる深津さんと議論したいことがあります。個別最適化から全体最適化に変わってきた現在、最適化の難易度が上がっています。そこで、複数の領域を横断して、いかにAIをトレーニングしていくかが重要になってきますが、AIの現状をどう見ていますか?
深津:「顧客が必要な時に必要なものを生成する形」が主流になるかもしれません。
藤井:「アフターデジタル」共著者の尾原さんは、「検索から生成へ」とよく言っています。検索は、今ある選択肢の中から一番ぴったりなものを探すだけですが、生成は、欲望に対して今までにないものを提案してくれるもの。万が一、自分が思っているものと違うものを提案されても、そのズレを修正すること自体が楽しく感じるのです。
深津:画像生成AIを開発しているStability AIのCEO、エマド・モスタークさんも同じことを言っています。「ユーザーが真に求めているのは、ユーザーにマッチするものでなく、ユーザーの欲しいものを見つけてくることですよね」と。
深津:「Stable Diffusion」とか「DALL・E(ダリ)2」といった画像生成AIは、出たばかりの技術なので、まだ機能性のレイヤーで勝負ができているのですが、このレイヤーが終わると「著作権に配慮しました」みたいな、より高次なレイヤーでの勝負に変わってきます。
それとは逆に、意味性からスタートしている画像生成AIもあって、例えば「日本人による日本人のための画像AIを作る」みたいなストーリーが出てきます。つまり下のレイヤーで勝てないから、上のレイヤーである意味性だけで勝負をかけているんですね。
藤井:言語のAIでいうと、どの言語でも同じように処理できる汎用モデルが登場してくると、下のレイヤーでは勝てなくなるから、「最初から意味性で戦いましょう」と、AIの世界でも起こっています。
藤井:クリエーターにとっての生成系AIの役割は、どのように見ていますか?
深津:絵を描く行為そのものが好きなクリエーターなら、画像生成AIが出ようが出まいが何も変わりません。一方、絵を描いてSNSで「いいね!」をもらうことが好きだとしたら、画像生成AIは、そのクリエーターのアイデンティティを脅かすかもしれませんね。つまり、同じ絵を描く行為でも、どの部分に重心をかけるかでクリエーターの生成系は、変わるでしょう。「馬VS車」とか「侍VS鉄砲」みたいなことと同じだと思うので。