ビジネス

2022.12.14

30年変わらない「呪い」を打ち破れ!多様性を力に変える、これからのリーダーシップ


キーワードは「自己効力感」


大橋:BEYONDの軸は2つある。ひとつは、受講生が個々の考える経営課題に基づき企業を変革していくというもの。もうひとつが、私らしいリーダーシップのあり方というもの。私らしいリーダーシップを考えるにあたり、アンコンシャス・バイアスからの脱却が鍵だと考えているが、笹原さんはパートナーと遠距離結婚されるなど当たり前を超えていくというのを実現されてきた。どのように当たり前を超えてきたのか。

笹原:遠距離で結婚を決めた際も、夫は大阪勤務で、夫のほうに私が行くのだろうと当たり前に思っていた。ある日、はたと気づいたのは、結婚と同居は別のことだと。それこそ上司に「君は何がしたいの」と問われ続けていたおかげで、「仕事は続けたい」「結婚はしたい」と考えたら、第3案が見つかり、バイアスが取れた。自分の心のモヤモヤを消化するまで考え尽くすのはすごく大事だと学んだ。
 
もうひとつは、係長時代の出来事だ。課長になんと言われるかを想像し、答えを出さねばというプレッシャーがあった。ただ、ある日、私が、課長よりも詳しい技術仕様の相談がきた。その時に初めて「こうしたほうがいい」「上司が違うことを言っても、私が説明してあげる」と言うことができた。

自分の経験からアドバイスすることが大事だったと気づいた。組織のなかにも、私の意見もあれば、課長の意見もあり、多様な意見を議論したうえで正解だというのが最もいいことだと学んだ。そこからは役職が上がっても、同じ笹原優子として異動してきた。「私だったらこうすると思う。なぜならば、」と、上司ともチームのメンバーとも議論する場をつくることを大事にしている。気づいたのが早くてよかった。

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笹原優子◎NTTドコモ・ベンチャーズ代表取締役社長。1995年ドコモ入社。2014年より新規事業創出を目的にした「39works」プログラムを運営し、社内起業家支援。21年6月より、コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)の同社にて現職。

岡島:これから注目すべきキーワードは「自己効力感」だ。当たり前ではないもの、前例のないものに挑戦するときに、よくないのは「私なんかまだまだだ」と自分の実力を過小評価し、チャレンジを断ってしまうことだ。いわゆる「インポスター症候群」だ。

ユーグレナCEOの出雲充が「ミドリムシ(由来の燃料で)で飛行機を飛ばせる」と信じてきたような、大変そうだが自分ならできる、と思える力が自己効力感で、それをどれほどもてるか、が勝負になる。未来の自分に自信をもたせることをしないといけない。私が言いたいのは、リーダーシップも多様で変化しているなか、「みんな、リミッターを外そう」ということ。使命感は重要だが、「こうあらねば」といった求められていない責任感は外したらいい。

篠田:人的資本経営というキーワードが登場したことは大きい。例えば「従業員エンゲージメント」を開示する企業が増えたが、これは主観を測るもの。業務経験や年次など客観指標を中心にした過去の人材マネジメントと大きく異なる。

DEIは価値観の多様性、つまり主観の多様性を原動力にしようとするものだ。どちらも高めようとするなら、一人ひとりが会社の方向性とマッチしてやりがいがあり、自分らしく仕事、生活ができるほうがいい。

つまり、人的資本を切り口として経営する企業の取り組みは、DEI推進にも相乗効果が見込める。女性という属性であるが故に力を発揮できないことは、人的資本経営という観点から見れば「伸び代」でもあり、個人からすれば、伸び伸び自分らしく力を発揮することでリーダーシップと呼ばれるものにつながる。そこがうまく重なるいい土台ができ始めたのが「いま」と言えるのではないか。

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大橋沙彩◎日本たばこ産業(JT)経営企画部。2012年、JTに入社。営業、人事、役員秘書などを経て、21年4月から経営企画部にて、全社課題解決に向けた各種プロジェクトの企画・推進を担当。「BEYOND」プログラムのプログラムデザインを務める。

文=Forbes JAPAN編集部 写真=​​若原瑞昌

この記事は 「Forbes JAPAN No.099 2022年11月号(2022/9/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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