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Forbes JAPAN SALON

2022.12.15

ガレージでの創業から世界的メディア掲載までわずか4年。失敗続きでも諦めなかったハードウェア開発の夢

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ドーナッツロボティクス 代表取締役社長 CEO 小野泰助

これからますます広がっていくロボットの未来、そして人とAIの繋がりの輪。社会課題解決のためにハードウェアやAIを扱いながら、さらにデザインにおける美しさにもこだわった製品とサービスの開発に取り組むのが、2016年に北九州市のガレージで創業したドーナッツロボティクスだ。CEOの小野泰助氏を東京・虎ノ門の本社に取材し、彼らがエンビジョンする未来のヒントを探った。


──まずは小野さんの経歴について、お聞かせいただけますか?

出身は九州です。老舗企業の創業一家に生まれましたが、父が14歳の時に亡くなって生活が変わり、他人には言えない苦労もありました。

とはいえ僕にも創業者の血が流れているので、一念発起し22歳の時に自分で店舗設計して飲食店を始めました。独学だったのですが、その後デザインの仕事が舞い込んでくるようなって、上場企業のロゴ作成などもやりました。その後、プロダクトデザインにも携わるようになります。

海外での仕事も多くなり、1年ほどアジアで仕事をしたこともあって、そうした経験が全部、のちにいまの会社をつくる基になっています。やがて、いつの日かハードウェアをつくって、世界中で名を知られる会社に育てたいという夢を抱くようになりました。

──家業は継げなかったけれども、受け継いだのは、アントレプレナーシップの精神ということですね。

そうだとうれしいですね。創業一家に生まれると、生活環境は普通ではないですよね。7〜8歳の頃、大きな企業をつくった祖父に対して生意気にも「僕はこの会社を10倍に大きくできるよ。でも多分、僕は別の仕事で海外に行く」と訳もわからず言っていたそうです(笑)。なぜだか、小さい頃から会社経営して世界に出ると思い込んでいたんですね。



──ドーナッツロボティクスはどのような背景があって創業されたのでしょうか?

僕は幼少期から電子手帳を使うような変な子で、いつしかロボットやAIといった先端テクノロジーの記事ばかり目にとまるようになっていました。

ある時、近い将来いま人がやっていることは何もかもロボットがやるようになるというような内容の特集番組がありました。車の自動運転化も進み始めていましたし、既存の職業がどんどんなくなっていくなかで、自分はなくならない側にいたい、そして新たな職業を牽引したいと思うようになっていったんです。

当時はまだpepper君もなく、ロボットというとガンダムとかドラえもんとか言われる時代でした。「漫画じゃないのだから、そんなものはやめた方がいい」とみんなから言われました。誰も共感してくれないのなら、自分でやるしかないということで、まずは外観をデザインしてみました。優秀なエンジニアを探して、内部機構を形にして、クラウドファンディングで発表をしました。それがスタートです。

──時代の先駆けとなるには、苦労がつきものですね?

いまは、いろんな人が手を差し伸べてくれて成り立っていますが、当時は周囲の理解をまったく得られませんでした。協業してほしい、完成したら採用してほしいと交渉しに行くのですが、誰も相手にしてくれません。社長まで辿り着けずに、いつも担当者レベルで断られていました。

負け惜しみで、ある担当者に「このプロダクトはきっと成功して、のちにこのストーリーは映画化されるかもしれないです。そうなった時にあなたは『採用しなかった見る目のなかった人』として描かれてしまいますが、それでいいんですか?」という話をしたこともありました(笑)。結局、ある大手企業と協業することになったのですが、そこまでの道のりの苦しさは忘れることがありません。



──小野さんの確信と、周りの不理解が長いこと平行線を辿って来たのですね。いつモメンタムが訪れたのですか?

羽田空港で、ロボットの「cinnamon」が翻訳ができるということで採用されてから、少しずつ投資家が会ってくれるようになったんです。

次にコロナ禍となった時に「C-FACE」という100カ国後の翻訳機能付きのマスクを発表したのですが、『New York Times』など海外の新聞をはじめとするさまざまなメディアに取り上げていただき、また風向きが変わりました。

──ようやくプロジェクトが動き始めて、注目が集まった時、どんな思いがありましたか?

それまでは誰からも評価してもらえないし、本当に辛かったんです。大人になってからはボロボロのアパート暮らしも長かったですし。それでも僕は「次のApple」と言われるようなブランドをつくりたいという夢があったので、ほんの少しだけ世間に認められた時はうれしかったですね。

──強い反骨精神も力になったのですね。

頭にあるビジョンは叶えることができるという、根拠のない自信だけはあります。道のりこそ思ったとおりには行かないんですが、やると決めたことは叶えられるはずだと。

ちなみに現実化させるという話ですが、3年くらい前、自分の計画としていずれ『New York Times』、『Forbes』などに出ることを周りのスタッフに伝えていたんです。自分の写真が載るのだから、痩せていたほうがいいよねっていう話をして、国内フィジーク大会で優勝しているトレーナー・望月あもん先生を紹介してもらいました。毎週、強烈なトレーニングに取り組んで体重が10kg近く減り、筋肉がついた頃、本当にそれらのメディアから取材を受けることになりました。

トレーニングを通じて脳と体が一体化するみたいな、目の覚めるような感覚をもてるようになりました。



アリババ創業者のジャック・マーが、入社試験で逆立ちをさせるという話があるのですが、この現実世界で生きるうえでは知性とメンタルだけでなく、フィジカルの洗練も重要なのかもしれません。ゲームの世界では、課金をしてアバターを強力に育てていきますよね?そんなイメージで、現実世界でも時間をかけて体を鍛え、いい食べ物を食べて健康な体をビルドアップしていくことも必要なのかもしれないですね。

──小野さんは信念をもち続ける力と、それを実践する行動力が違いますね。そのうえで将来目指そうとする「次のApple」という目標とは?

まだスタート地点にも立っていなくて笑われるかもしれませんが、いずれはハードウェアやロボットの分野で、Appleのような洗練されたブランドになることが目標です。掃除機の分野のdysonも素晴らしいですね。僕たちはスマートフォンの次に重要になるデバイスをつくり、そういう存在になりたいんです。

──そのためのメイン商品であるスマート イヤホン「clip EAR」やスマートマスク「C-FACE」、小型ロボット「cinnamon」についてご説明いただけますか。



「cinnamon」は翻訳ができる受付ロボットとして開発し「C-FACE」や「clip EAR」はコロナ禍にあって、マスクをしながら遠くに声を届けるとか、イヤホンによって翻訳や議事録がつくれたりといった現代の課題解決ツールとして開発したものです。

2020年は、コロナによって世界が終わってしまうのではないかと思うような年でしたから、人と人が物理的には距離を置きながら、どうやってコミュニケーションを取るかということを真剣に考えたんです。

実際「C-FACE」はマスクをしながら、離れていても相手のスマホに翻訳して声が届くという、その当時の暗い雰囲気に少し明るい話題を提供できる製品でした。メディアや市場からも多くの喜びの声が届けられました。そもそもはTO B用に、翻訳の必要な受け付け業務等に役立ててもらうものとして開発を進めたのですが、のちにイヤホンのほうがより適しているという話になり、すぐに「clip EAR」の開発が始まりました。

「clip EAR」は翻訳だけでなく、距離無制限のインカムになったり、オンライン議事録が取れるイヤホンですが、いずれ店舗で働くスタッフの発言を録音して、それを解析するといったサービスもできるようになっていきます。

将来、さらに高性能なAIができてくると、レストラン予約しておいてくれとか、これを買っておいてくれとか、そんな手配をAIがみんなやってくれて、スマートイヤホンにその報告をしてくれる。そういう世界がもうすぐ実現するようになるんです。

──そうしたAIとそれを利用するためのデバイスが進化した先では、我々の生活はどのように変わっていくのでしょう?

すでに人は常時オンライン接続されたような生活をしていると思いますが、デジタルの世界にいるのかリアルの世界にいるのか、その境目がますます分からなくなってきていると思います。最近ではメタバースの世界で稼げるようになり始めていますし、そこでの地位がリアル世界にも影響を与えるようになってきています。

AIの性能がさらに向上してくると、人間よりも正しく未来を予測してくれるので、人生そのものすら、AIの予測に委ねるほうが間違いがなくなるのかもしれません。それらのAIと繋がるのが「clip EAR」のようなスマート イヤホンになると考えています。

パーソナライズされたAIがスマート イヤホンを通じて、日々自分に恋人のように接してくれたり、細やかな気遣いや的確な助言をしてくれるようになるでしょう。買い物もそんなAIの薦めで行うようになります。

──誰もが好きな形でAIパーソナルコンシェルジュをもち、極力失敗せずに自分の個性を伸ばしていけるという、そんな未来が待っているということですね。

好きな芸能人の声の秘書になるでしょうね。僕はまだ独り身なんですが、寂しい時には秘書AIが話し相手になってくれたらいいなという個人的な想いも、clip EAR開発の後押しなってくれているかもしれません(笑)。

──現状の製品やサービスに通底する哲学や要素には、どのようなものがあるのでしょうか?



デザインには黄金比を取り入れるようにしています。見ていてなんとなく気分が良くなったり、つい手に取りたくなったりする――そうしたデザイン上の心地良さは、特にこだわっている要素のひとつですね。

──最初はスポンサーの理解を得られず苦労したという話がありましたが、ここにきて複数の資本業務提携の話が出てきているそうですね。

まだまだなのですが、さまざまな業界毎にスマート イヤホンを独占販売していただける企業様と一緒に普及していければうれしいです。

──ビジネススケール的にも大きな飛躍になると?

いずれはそうなって欲しいです。「clip EAR」は片方の耳で翻訳などのAIに対応しながら、もう片方の耳では接客する相手の声が聞こえます。TO Bで普及できるポテンシャルをもった製品だということが広まるといいですね。

──小野さんが普段アンテナを張っている分野、あるいは情報源にしているものとは?

本はすごく読んでいると思います。将来のビジョンを題材にした本が多いです。例えば2050年に世の中はどうなっているかというような。他には、深い内容の理解はできないですが、量子力学に関する本を読むこともあります。現実で起こることをどう理解していけば良いのか?いろんな角度から考えるきっかけになります。

変なところでは、昔はよく女性ファッション誌を買うようにしていました。ファッションだけでなく、写真の背景となるおしゃれなカフェとか建物とか、どんなものが女性の間でイケているのかを感じ取れるようになりたいという想いからです。

──それは興味深いですね。小野さんが、この仕事をしていて良かったと思えたようなうれしい手応えを感じたのはどんな時だったのでしょうか?

下積みが長いだけに、メディアに出させていただいた後、初めてお会いした方から「見たことがあります」と言われると、ここまで続けてきて良かったなと思いますね。

他にも、日本の玄関口でもある羽田空港に製品が採用されたこともうれしい出来事でした。これから「clip EAR」が活躍してくれると本当にうれしいです。タイムトラベルして創業当時の自分に「羽田空港で使われるようになるよ」と教えてあげたいくらいです。



──さて、本社とは別の事務所にもご案内いただきましたが、アートやデザイナーズチェアのあるクリエイティブな環境ですね。

こちらはロボットや製品の部材置き場なんですが、ここからオンラインミーティングに参加することが多いですね。片隅に置いたアートや椅子は、10年くらいかけて少しずつ集めたものです。日々書類ばかり眺めていると、感覚的にギスギスしてくることもあるので、バランスを取らないといけません。有機的なもの、美しいものに囲まれていると脳がいい状態になって、いい決断ができるようになると信じています。



──そんな小野さんは、メンバーであるForbes JAPAN SALONにどんなことを期待していますか?

パーティに参加させていただき、それぞれの業界の粋な方たちとお会いすることができました。皆さまがどんなこだわりをもたれているかを、勉強させていただきたいです。

会社というものは売上や時価総額で判断されることもあると思うのですが、サロンのメンバーたちは人間としても、内面が素敵な人が多かった。そういう人たちに出会えるのが、自分にとっては大きな財産になると思いました。

──最後に、サロンへの参加を通じてどんな貢献をしていきたいと思いますか?

参加を通じて自分を高め、その成果を製品やサービスの向上に生かせたらいいですね。いまの日本は世界市場においてプレゼンスを失いかけていて、コロナ禍や円安でも打撃を受けています。そうしたなか、僕らのような小さなスタートアップでも海外で評価されるようになれば、明るいニュースを届けられる。いつかそんな存在になれるよう、頑張りたいと思います。


おの・たいすけ◎1974年、福岡県生まれ。14歳で父親を亡くし、経営やデザイン手法を独学で身につける。22歳で起業後、数々の失敗を経て「デザインの匠」としてテレビ番組出演。2016年、北九州市のガレージで小型ロボット「cinnamon」を開発し、ドーナッツロボティクスを創業。2020年、New York Times紙に特集される。

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text by Shigekazu Ohno(lefthands) / photographs by Takao Ota

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