窮地にこそ「ふざける」
呂布が「もっと難しい」というラップバトルではどうか。
「客判定なので、その日何がウケるか分からないんです。判定基準は、フロウ(歌い方、節回し)やライム(韻)など軸はありますが、論破したら勝ちとなる訳ではないので。音楽もその場で分かるし、ディベートより20倍は難しいですよ」
相手を一撃する言葉のパンチ力が持ち味で、R-指定など有名ラッパーを輩出した「フリースタイルダンジョン」では、2代目、3代目モンスターになるなど、数々の戦績を残してきた呂布。なかでも印象的なラップバトルは、「凱旋MC Battle 東西選抜 冬ノ陣 2020」でのMU-TONとの決勝戦。
延長戦になって立ち位置が変わると、呂布が下手側に立ち、相手側のステージの角に財布とジャケットを置いたままにしていた。相手に「焦ってるんじゃないの?」と冷やかされると、呂布は自分側のステージの角にもサングラスと手に持っていた木を置いて、四隅に自分のものを配置し「魔法陣完成!」と言って、聴衆を沸かせた。ファンの間では伝説の一戦となっている。
勝因については、窮地に立たされた時こそ「ユーモアで、ふざけること」だと語る。
普段の生活でも、精神的に八方塞がりで身動きが取りづらくなることもあるだろう。呂布は「八方塞がる前に、二方くらい塞がってるところで気づかなきゃ。三方塞がったらアウトだと思いますよ。周りをよく見て、退路を確認しないと」と笑いながら助言する。
勝ちにこだわり、生半可じゃない姿勢で臨みながらも、ユーモアを忘れないのが呂布流の戦い方だ。
地方からの勝ち筋
呂布は大学卒業後からすぐラップを始め、30代でプロラッパーとして生活できるように。2児の父親でもあるが、40歳を目前にしたいまも、名古屋の拠点を変えていない。
その理由について「名古屋は立地がよくて東京方面も関西も行きやすい。景気もいいし、外に出る理由がないですよね。でも、もし20代で売れていたら違ったかも。テレビ出演は東京が多いし、東京に引っ越したかもしれない」と語る。
逆にいまでは「東京に出るともったいない」と感じている。「東京はひとりひとりのパイは小さい。名古屋といえば、呂布カルマとなるので」と。
ローカル拠点を貫くことで「名古屋と言えば、呂布カルマ」という強みになっている
地方からの勝ち筋はあるのだろうか。「職種によると思うし、一概には言えませんが」と前置きした上で「『東京最高、二度と地元には戻りたくない』という人もいますが、そうじゃなく悩んでいたらすぐ帰った方がいい。何か違うと思ってるんだから、その時点で出た方がその人にとっていいでしょ」とキッパリ話す。
いまは東京でテレビ出演が多い呂布自身、将来を見据えてこんなことを考えている。
「東京で飽きられても自分にはホームがある。名古屋って逆輸入好きな土地柄だから。地元の深夜番組でゆるく無責任に出演しつつ、全国のステージを回る。いずれ名古屋だけでも充分やっていけると思ってますよ」
判断力の素早さ、切り返しの鋭さは百戦錬磨の腕前だ。時に周囲の反感を買い、SNSでやり玉に上げられることもあるが、本人は全く気にしていない。「フォロワー0の『捨て垢』に何か言われてダメージを受けていたら、そもそもステージで人前に出られない。言葉ってその人自身を表すものだから」。一見強気な発言にも捉えられるが、その言葉には奥深さがある。これからも呂布は自分軸を貫き、唯一無二のキャリアを築くだろう。
前編:ディスらない「寛容ラップ」で話題 呂布カルマとは何者か