プーチンの「エネルギー王」としての時代は終わりを告げようとしている。世界はすでにロシアのガスに代わるものを探しており、数年前と比較すると、ロシアの石油への依存度はかなり低くなっているのだ。ロシア政府がエネルギーキャリア販売によって得る利益は減少しており、それがますます政府の財政を圧迫している。長期化したウクライナ戦争は、あまりにも高くつきすぎた。
プーチンは、「ロシアのガスがないと冬に凍え死ぬことになる」と欧州人を脅すことに精を出してきたが、それは逆効果となっている。売り手市場が買い手市場になり、欧州がロシアのガス供給を必要とする以上に、ロシアがEUへのガス販売を必要とするようになったのだ。エネルギー危機と冬の欧州人の潜在的不快感は、もはやウクライナ支持への団結を脅かす存在ではなくなった。
理由はいたってシンプルだ─ガス、特に液化天然ガス(LNG)の世界的な供給の伸びが大きいからである。ウクライナ侵攻後、EUの輸入に占めるロシアのガスの比率は、46%から9%に低下した。これはノルウェーやアルジェリアからのガスパイプラインによる供給が増加した影響も受けているが、それ以上にアメリカなどから欧州へのLNGの輸入が急増したことが大きく影響している。
Forbes Ukraineの推定によると、現在、世界のLNG供給の最大4割をEUが占めている。この"革命"は文字通り「今」起こったことなので、皆が気づいているわけではない。しかし、新たな大型LNGプロジェクトが展開する様子を判断すると、今年だけで世界の供給量は20%、1000億立方メートルも増加することになる。
プーチンは、我々の控えめな試算では、逆に、ガス販売量の減少により、1年間で1000億ドルを受け取ることはないだろうと考えている。ガスプロムの生産量はすでに3分の1まで落ち込んでいる。クレムリンは、ロシアと西側を結ぶパイプラインシステムを使えなくなり、ガスをアジア地域に転用する必要に迫られた。しかし、ここで問題となってくるのは、ロシアとアジア地域を結ぶパイプラインが存在しないことである。
唯一『シベリアの力』は現在建設中だが、深刻な予算超過と計画遅延の問題を抱えている。このパイプラインはロシアと中国を結ぶものだが、ロシアと欧州のパイプラインの1割の容量しかない。中国は新たなパイプラインの建設を急いでおらず、プーチンがガスバトルに負けるということは、ロシアのガスが地下に留まり続けることを意味する。