2030年代後半か2040年代に行われると予想されている火星への有人ミッションもその対象となる。
宇宙放射線被ばくは、宇宙旅行における最も危険な要素であり、長期の有人宇宙探査にとって最大の障壁になることは間違いない。
Scientific Reportsに掲載された論文によると、研究チームは宇宙飛行士を人工的に「休眠」状態にすることを考えている。動物が冬に向けて冬眠したときの状態だ。そのような状態にある生体は生命維持活動が減少し、分子レベルで変化を受けることが知られており、以下のような変化が起きる。
・体温が低下する
・代謝が減少する
・心臓の拍動が遅くなる
・酸素摂取量が減少する
・遺伝子活性とタンパク質合成が低下する
人間と同じく冬眠しないラットを使った実験では、人工的に作り出された冬眠が、放射線に対する耐性を高めることが示された。自然な冬眠を行う動物が耐放射線性を獲得することは、科学者の間ですでに受け入れられている。
宇宙飛行士を安全に火星へ送り込む6カ月以上の旅のためには、宇宙線放射から保護するために人工冬眠させる必要があるかもしれない(Getty Images)
重要なのは宇宙空間において、宇宙線の悪影響から宇宙飛行士を保護することが非常に困難であるためだ。最大の懸念されているのは銀河宇宙放射線(GCR)だ。遠い銀河で発生する高エネルギー荷電粒子で、高密度に電離した重イオンも含んでおり、これらが宇宙船や宇宙飛行士の体内に侵入するのを防ぐことは不可能だ。
GCRの存在は、宇宙飛行士たちが地球の安全なバックグラウンド放射線の200倍以上のレベルの放射線に長時間にわたって浴びることを意味する。しかし、今回の研究によって、人工的な冬眠により放射線による組織損傷の軽減が明らかになった。
「私たちの研究結果は、長期宇宙ミッションにおける生体の放射線保護を強化する方法として、人工冬眠が有望な手段であることを示しています」とドイツ・GSI加速器研究所のマルコ・デュランテ教授はいう。「これは太陽系を探査する人間を保護する有効な戦略になり得ます」
また今回の結果は、放射線による細胞損傷を予防には組織内の酸素濃度低下と代謝の減少の2つが重要な要因であることも示唆している。人工冬眠が臓器に与える影響についてはさらなる研究が必要であることを研究チームは指摘しており、現時点では人間を安全かつ制御された方法で冬眠させることは不可能であることを付け加えた。
澄み切った空と大きな瞳に願いを込めて。
(forbes.com 原文)