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2022.12.10

ワールドカップ、ABEMAのニンマリと「蒙牛乳業」のトホホ

Getty Images

日本が大活躍したサッカー・ワールドカップ(W杯)カタール大会で応援に行った人たちは「?」と思う光景に出くわしたはずだ。

なぞの中国系の広告をはじめ、「採算はあうの?」「こんなに人が亡くなっているの?」という意外なエピソードにあふれている。日本人として初めてレアル・マドリードMBAコースに合格してレアル・マドリードC.F.にも所属した経験をもつ、酒井浩之・スポーツエージェント会社「MANAGEMENTIVA」代表に現地からレポートしてもらった。


世界人口の約半分に当たる35億人以上が観戦するといわれるサッカーワールドカップですが、スポンサー看板に見慣れない漢字が使われている広告が出稿されていることに気づかれただろうか? ピッチサイドのサイネージに並ぶ漢文字が一体何か。

漢字4文字の不思議な看板は今大会から契約が始まった中華系の「蒙牛乳業」という乳製品を主に取り扱うブランドだ。しかし、現地でいくつか大きな問題点があることに気がついた。

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まず、試合前に集まっていたファン数名に実際声をかけて聞いてみた。スペイン語圏、英語圏、いろんな言語の人に聞くと、ブランドに気づいていた人は皆無。「蒙牛乳業」が現地で行っていたアクティビティは、ブース出店による場外の試合開始前イベントと会場内でのアイスクリームの販売であった。

ほかのFIFAパートナー企業と同様で、サッカー好きなファンの囲い込みを意識したアクティビティを場外で行いつつ、どんな商品を展開しているのかが一眼でわかるような形になっている。しかし、このブランドの商品をカタールはもちろんのこと、世界中にブランド認知をさせたところで、そもそも世界的に販売されていない製品である。プロモーションをして意味があるのか?

ピッチ横のデジタルサイネージにも広告が漢字とアルファベットで並ぶ。アルファベット表記は表示時間が短く、内容を認知できない。

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さらに販売されているアイスクリームは数国の国旗にちなんだ商品を特別に製作することで馴染みやすさを演出している(たとえば、アルゼンチンであれば国旗モチーフにミルクシャーベットとソーダシャーベットの組み合わせた商品に仕上げる)が、今回のワールドカップは常夏の中東開催ということで会場内に常識の範囲を越えるほどのクーラー設備が施されている。

会場内は気温が低く、特にピッチサイドや観客席の空調設備の近くでは長袖の上着が必要なほど。この環境下で誰がアイスクリームを手にするのか。それでも販売員が「アイスククリームはいかがですかー」と会場を練り歩いている。

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気温差問題はもう一つあり、今回の試合開始時間は全て18時以降のいわゆる夜間開催。最も遅い時間で現地時間22時キックオフ。日中は30度を超える気温になる事もあるためにいわゆる“暑い”と感じる(半袖のTシャツ1枚で汗ばむ)。しかしながら陽が落ちると一気に気温が低くなり、とても半袖1枚で寝床に着くことが難しい15度前後まで下がる。

私もコンテナ宿泊施設を使ったが、ユニクロのダウンジャケットを羽織って布団にくるまって寝ていたほど。18時以降肌寒くなって誰がアイスクリームを購入するのか。現地のマーケティングリサーチが全くなされていない感が丸出しであることは言うまでもない。この状態で、FIFAパートナー契約は複数年契約がベースで年間約20億円~50億円近くと言われている。

仮に年20億円だったとしても、2大会における契約で最低でも100億円(5年)。4年に一度のこの大会で、さらに開催期間はわずか30日前後という短い期間に、果たしてスポンサーになる意味合いがあるのであろうか?

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文=酒井浩之(MANAGEMENTIVA)

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