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2022.12.09 09:00

負債数億円から再起 「情熱派」CEOの人生をかけた事業が急成長

露原直人

バニッシュ・スタンダードCEO 小野里寧晃(撮影=林孝典)

「死んで終わりにしよう。保険金で借金もチャラにできるかもしれない……」

30歳を手前に自身で事業を起ち上げるが、失敗して負債を数億円抱え、社員もゼロに。一度は死をも考えたという。

そんな凄まじい過去を持つ経営者の小野里寧晃(おのざと・やすあき)が、2016年から始めた事業「STAFF START(スタッフスタート)」が、いま小売業界に変革をもたらしている。

同サービスは、ブランドの店舗販売員が、自身がECサイトで売り上げた実績を可視化するものだ。これまで、ECでの販売実績はEC部門のものとして換算されるのが一般的だった。スタッフスタートはそれを販売員や店舗の実績としてカウントする。

販売員が服のコーディネートなどの写真や動画をサイト上に掲載すると、それを経由した購入の売上金額を記録するのだ。また店舗スタッフがLINEを介して友達登録をしたユーザーに、キャンペーン告知や商品紹介もできる「オンライン接客」サービスも提供する。

スタッフスタート

現在、導入しているブランドは「ユナイテッドアローズ」や「資生堂」「大丸松坂屋」「デサント」など、アパレルを中心に2100を超えている。2022年のこのサービス経由の売り上げは昨年対比で約120%の1529億円を突破した。

利用するスタッフ数は全国で約18万人に上り、導入企業の7割は、各販売員の売り上げを、インセンティブの給料上乗せや表彰や自社製品の現物支給という形で還元しているという。

しかし、小野里の会社がこれほどの成長を遂げるまでには、試練続きの長い道のりがあった。

情熱の押し売りをしてしまった


小野里という人物をひと言で形容するならば「ザ・パッション派」。持ち前の明るさと行動力で、人を巻き込んでいく情熱タイプのリーダーだ。

2011年、「常識を改める」という意味をこめた「VANISH STANDARD(バニッシュスタンダード)」を創業し、ECサイト制作の受託開発をスタートさせる。しかし「そもそもの事業の選択が間違っていた」と当時を振り返る。

「例えばアマゾンは配送スピードの向上とか在庫管理の仕組みを効率化して進化してるよね。なのに僕は「みんなでECの常識を改めよう」とか言ってパッションだけを語ってた。

それだと社員の給料が上がるわけでもなく労働環境が良くなるわけでもなく、貧乏暇なし状態になっちゃう。だんだん社員が疲れてきて、1人2人と辞め、キーマンとなるメンバーまで退職しちゃったんだよね。100%僕が間違ってた」

小野里は、代わりの優秀な社員を採用して、その穴を埋めようとしたが、無名の企業には誰も入ってくれない。そこで、知り合いに声をかけてまわった。すると「小野里の会社なら面白そうな案件もできそうだ」と言って、手伝ってくれることになった。

そんななかでバニッシュ・スタンダードは、競合9社のコンペを勝ち抜き、有名ブランドのECサイト制作を受注する。

しかし、である。小野里が「この案件で会社の名前を売ろう」と意気込み、制作を開始して1カ月経ったばかりの頃、協力をしてくれたメンバーが、口を揃えて辞退を申し出てきたのだ。
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文=露原直人 撮影=林孝典

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