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2022.12.07

マスクの脳デバイス企業に「動物虐待」疑惑、米当局が調査

Getty Images

イーロン・マスクが運営する、人間の脳とコンピュータを接続するデバイスを開発するスタートアップ「ニューラリンク(Neuralink)」が、動物福祉法違反の疑いで連邦政府から調査を受けている。ロイターが12月5日、同社の動物実験に関するスタッフの苦情を引用して報じた。

この調査は数カ月前に始まったもので、連邦検察官の要請を受けて米国農務省(USDA)が行っているという。ロイターによると、ニューラリンクの動物実験では2018年以降、約300頭の羊、豚、サルを含む約1500頭の動物が死亡したが、同社は動物の死亡に関する記録を保持していないため、その数は概算だという。

複数のニューラリンクの社員が、マスクがより早く結果を出すことを求めたため、死亡する動物の数が著しく増えたと主張している。

また、同社の内部コミュニケーション資料には、マスクがプロジェクトの進捗が遅いことに不快感を示し、社員らを急がせるために「頭に爆弾がくくりつけられた」と想像するように言ったとの記載があるという。

ニューラリンクは、先日のshow and tell(ショー&テル)イベントで、同社の脳インプラントを移植したサルがスクリーン上の文字をタイプする映像を公開したが、豚などの他の動物も同社のデバイスの実演に使用されたことがあるという。

フォーブスは、ニューラリンクにコメントを求めている。

ニューラリンクは今年初め、動物権利団体から同社がサルを「恐ろしい虐待」にさらしていると非難されていた。医学研究の倫理性の向上を目指すNPO団体の「責任ある医療のための医師委員会(Physicians Committee for Responsible Medicine)」は、ニューラリンクと実験を行っていたカリフォルニア大学デービス校に対する訴状を米国農務省に提出した。

同団体は、実験に使われたサルが「単独でケージに入れられ、頭蓋骨に鉄の柱をねじ込まれ、顔の外傷や脳移植後の発作、移植部位の再発性感染症に苦しめられた」と主張した。しかし、ニューラリンクは、「動物の福祉に取り組んでいる」と主張して、この訴えに反論している。

ヒトを用いた実験も開始予定


同社によれば、動物実験の施設とプログラムはUSDAの検査を受けており、「一度も警告を受けたことはない」という。また、ニューラリンクは、あらゆる新しい医療デバイスや治療薬はすべて、ヒトでの臨床試験を行う前に動物実験を行う必要があると主張している。

動物実験はヘルスケア業界では一般的で、実験終了後に動物を安楽死させて死後解剖を行い、実験の有効性を確認することもある。しかし、米国では動物を用いた実験は動物福祉法のもとで規制を受けている。

先週のニューラリンクの採用イベントshow and tellで、マスクは、同社が今後6カ月以内に埋め込み型脳内チップのヒトを用いた試験を開始する予定だと述べた。彼は、同社が食品医薬品局(FDA)にヒトでの臨床試験を開始するための承認を求めていることを付け加えた。

同社のブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)は、脳に直接埋め込まれた数千個の小さな電極を使って、神経細胞が発する信号を読み取り、コンピュータに送信する。このチップの大きさは25セント硬貨ほどの大きさで、厚さは頭蓋骨の一部と同じであるため人体に影響を与えないという。

マスクは、この脳チップの実用化が視力を失った人の視力回復や、麻痺に苦しむ人の運動機能の回復に役立つかもしれないと述べている。しかし、一部の専門家はニューラリンクの技術や安全性に懸念を示している。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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