キャリア・教育

2022.12.10 17:30

心臓が止まりかけた夜 臨死体験から得た、幸せ三原則 #人工呼吸のセラピスト

連載「人工呼吸のセラピスト」

連載「人工呼吸のセラピスト」

押富俊恵さんにとって2012年は復活の年だった。人工呼吸の身で研修会講師として地域デビューする一方で、7月には在宅復帰も果たした。

だが、当時のブログを読むと、命がいつ尽きるかわからない不安を抱えつつ、家族のためにいつも笑顔でいようと決めていたことがうかがえる。連載10回目の今回は、両親への誕生日メッセージから押富さんの信念を探ってみたい。

前回:誰のための「障害受容」か 当事者の声なき訴え

病気や障害があっても「元気でいる」覚悟


この年の4月25日で、父・忍さんは66歳。翌26日に、母たつ江さんは58歳。1日違いの両親の誕生日に合わせて、押富さんは「親孝行って…」というタイトルで長文のブログを書いた。母校の卒後研修会で講師を務める1カ月前で準備に追われていた時期だが、平易な言葉に込めた押富さんの覚悟に、目頭が熱くなった。


発病してから、どれだけ、親不孝をしてきたんだろう…
いままでだって、決して親孝行なんてしていないけど。
とくに、この2年間は親不孝といえることをしている私。
なにが親不孝かって…

「今回の肺炎はとても危険です」
「血圧が下がっていて危ない状態です」

敗血症になって、何度もICUに入ったこの2年間。
そのたびに、両親は医師から「危険な状態」という説明を受けてきた。
自分の子供のそんな病状を受け止めさせなければならなかったこと。
それは、とんでもなく親不孝なことだと最近分かるようになった。

両親には健康で長生きしてもらいたい。
自分はそんなに長生きはしないと思う。
きっと両親より先に死んじゃうと思う。

でも、介護が必要な子供を残して死んじゃうより、先にいなくなったほうがきっと両親の心残りにはならないだろう…

本気でそう思っていた。
親より先に死ぬなんて親不孝だっていうのは、健康な人がいうことだって思ってた。
いまでもそう思う気持ちは十二分にある。

だけど、やっぱり、自分の子供が死ぬかもしれないって現実を突きつけるのはいけないことだって思う。

どんなに頑張ったって、介護が必要なのには変わりない。
だけど、両親がいなくたって、生きていける。
そう、大丈夫だって思わせてあげられることができたら…

それが一番の親孝行になるのかな…
なんて漠然と考える。

病気や障害はあるけど、元気でいること。
毎日、楽しく笑って過ごしていられること。
それくらいしかできないけど…
両親が元気な間、もう、子供の死の覚悟みたいなことをさせないでいられたらいいな。
親より先に死なない。
できる保障はないけど…

だけど、いつも元気で笑って過ごしていられたら…
そうしたら、きっと両親だって喜んでくれるはず。


上のブログでは、親孝行について悩みながらも、この年の両親への誕生日プレゼントは「一年、元気に笑って過ごすこと。これで我慢してもらいましょうかね…」とし、最後は「お父さん、お母さん、お誕生日おめでとう」という言葉で締めくくっていた。


押富さんが使っていた電動車いすと母・たつ江さん
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文=安藤明夫

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