過去、歴代首相は観閲式や観艦式にはモーニングにシルクハットで参加してきた。かつて、陸自朝霞駐屯地で行われた観閲式に臨む際、シルクハットを忘れた首相がいた。モーニングは移動しづらいので、上着やシルクハット、白い手袋などは、秘書官が携行している場合が多い。ただ、自衛隊も心得たもので、朝霞駐屯地には予備のシルクハットと手袋が常備されていたため、この首相は恥をかかずに済んだという。シルクハットと白手袋は手に持っていても良いし、秘書官に預けても良いのだそうだ。
一方、今回の件について調べてみると、首相の服装に関する規定はないということだった。動きやすさや儀礼をどう扱うか、などに従い、首相の判断に一任されているのだという。さらに、別の関係者に尋ねてみると、「ああ、それは岸田さんの外交姿勢とは関係ないですよ。新型コロナの流行を考え、なるべく式を簡素にするという申し合わせの一環です」と教えてくれた。確かに、2020年11月に行われた航空観閲式に出席した菅義偉首相、昨年11月に朝霞駐屯地で行われた観閲式に出席した岸田首相は、それぞれスーツ姿だった。岸田氏は昨年の観閲式では、ヘルメット姿で陸自の10式戦車に試乗もした。別に自衛隊を嫌っているとか、距離を置いているということではないだろう。防衛省関係者も「総理は服装にまで気が回らないですよ。周囲の助言でスーツにしただけだと思います」と語る。
ただ、岸田氏も、自民党右派グループなどから「中国に弱腰」などのレッテルを貼られていることは知っているだろう。日ごろ、「丁寧な説明」を繰り返しているだけに、どこかで、「コロナ禍が収まったら、是非モーニングで出席したい」とでも言えば、変な誤解は受けずに済んだだろう。あるいは、「モーニングをスーツにしても、コロナ感染対策とは言えない」と主張してもよかった。もちろん、「大事なのは形でない。自分はスーツで臨む」という選択肢もあっただろう。
首相の服装はともかく、早くコロナが収束して、来年の観閲式の頃には、コロナ以前の日常生活に戻っていてほしいものだ。
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