「なんでモーニングじゃないんだ」 岸田首相が観艦式にスーツで臨んだ理由

横須賀沖で行われた海上自衛隊創設70周年記念の国際観艦式で、海上自衛隊員から敬礼を受ける岸田文雄総理大臣(Photo by Issei Kato / Pool/Anadolu Agency via Getty Images)

新型コロナウイルスの感染者が再び、増え始めている。1日あたりの新規感染者は全国で15万人に迫り、東京都でも1万人を超えるようになってきた。すでに、「第8波」の流行が始まったとの見方もある。ただ、日本政府はコロナの感染拡大を防ぐ規制の撤廃を進めている。10月半ばから、外国からの入国者の上限数を撤廃した。マスクの着用についても、政府は屋外では原則不要とし、屋内でも人との距離が確保できて会話をほとんど行わない場合には着用は不要だと説明している。

まだ、「第8波」の流行まで時間があると思われていた11月6日、相模湾で海上自衛隊の創設70周年を記念した国際観艦式が行われた。もうすでに、海外からの入国制限も撤廃されていた時期だが、新型コロナの感染拡大防止を考え、一般の参加は見送られた。海上自衛隊関係者は「本当は、大勢の人を護衛艦にご案内したかったのですが、残念です」と語る。自衛隊は集団生活が基本だし、海自の場合、海に出たら逃げ場がない。慎重すぎるという指摘があるかもしれないが、もし観艦式が契機になって感染者が続出したら、責任を問われるのは海自自身だから、責められない。

それでも、観閲部隊4隻の中心、ヘリコプター搭載型護衛艦いずもには、外交官や駐在武官らを含む大勢の招待客が招かれた。海外の招待客らは、マスクをしたり、しなかったりだった。サッカー・ワールドカップの応援風景を見てもわかるように、海外ではノーマスク姿がほとんどだ。自国の基準に合わせればノーマスクだろうし、「郷にいれば教に従え」と考えた人もいたのだろう。海自幹部らはマスク姿だったが、招待客を出迎えるたびに、律儀にマスクを外していた。マスクを外した方が礼儀作法にかなうということなのだろうが、「人に会うときにノーマスク」は珍妙な光景だった。乗艦した岸田文雄首相や浜田靖一防衛相も、艦内で栄誉礼を受けるときは、マスクを外していた。

観艦式は無事終わったが、その後に会った自衛隊OBの何人かが、やや不満を帯びた口調で尋ねてきた。「なんで、総理は平服(スーツ)だったんだ」。確かに、岸田首相も浜田防衛相も当日、普通の背広姿だった。OBの1人は「駐在武官のなかにはモール(飾緒)をつけて礼装姿だった人もいたそうじゃないか。海外の祝賀艦艇から敬礼を受ける総理が平服姿だったなんて」と愚痴をこぼした。なかには、「やっぱり、岸田さんは安倍さんと違って、自衛隊に理解がない」という人もいた。別のOBは「(社会党の)村山(富市)さんだって、民主党の菅(直人)さんだって、モーニングにシルクハット姿で観閲式に出席した」と文句を言った。
次ページ > 首相の服装に関する規定はない

文=牧野愛博

ForbesBrandVoice

人気記事