スイス「停電時にはEV使用を控えるべき」と緊急時対策の草案に盛り込む

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スイスでこのほど、電力不足に起因する停電という緊急事態時の対応策の草案が発表され、注目を集めている。この草案では、緊急事態が第3段階まで進んだ場合、多くの電力利用が制限または禁止される。中でも最も注目されているのは、不要不急の電気自動車(EV)の使用が制限されるという点だ。

注目を集めているのは、ガソリン車からEVへの移行に世界がどれだけ対応できるかが議論されているためだ。欧州ではロシアのウクライナでの戦争でエネルギー供給が混乱し、戦争によって生じる事態に備えていなかった中で、エネルギー不足や停電があり得ると懸念されている。

草案を読んで、人々はEV購入を控えるべきかもしれないと考えている。草案では、通勤、買い物、受診など必要な用事のときはクルマで移動でき、またスイスの優れた鉄道網も使えるが、EVの使用が制限されるかもしれないことを心配している。

幸い、現実はそれほど怖ろしいものではない。1つには、戦争によって石油や天然ガスの供給が停止した場合、ガソリン不足が起こり、ガソリン車の使用も同様に制限される可能性が高いからだ。

さらに、案にある第3段階では暮らしの中で他にも多くのことが制限される。それらは以下のとおりだ。

1. 店は営業時間を短縮するか、支店を閉鎖しなければならない
2. 電気乾燥機の使用制限
3. 電気暖房のある建物は医療施設を除き、サーモスタットを摂氏18度に設定しなければならない
4. 湯船、サウナなどの使用制限
5. プール向けの電熱の禁止
6. 競技場の照明、空気注入式の施設、洗車場、ディスコの照明の使用禁止
7. ビデオプレイヤー、ゲーム用コンピュータやコンソール、オンラインストリーミング、アイスリンクなどの使用禁止、暗号資産(仮想通貨)のマイニングと高頻度の取引の禁止
8. 第2段階では屋外広告、イルミネーション、家庭用乾燥機、ミニバー、クーラー、プレートウォーマー、製氷機、エスカレーター、動く歩道が禁止される
9. 第1段階ではポータブルヒーター、パティオのヒーター、エアコン、駐車場の照明、明るい照明、使用していない空間の照明、公衆トイレの温水、ドア近くの暖房、使っていないパソコンの電源の入れっぱなしなどが禁止される

つまり、日常の暮らしが大幅に制限されることになる。

今回のような戦争の場合以外に、スイスがこの計画を必要とする可能性はあまりない。スイスは電力の62%を水力発電で、29%を原子力発電で賄っている(原子力発電所を段階的に廃止しようとしている)。また、水力発電の普及のおかげで、電力網において割合が拡大している再生可能な電力を揚水発電で貯蔵することもできる。山が多く、雨が多いため、スイスは風力や水力発電に最適な場所だ。

実際、石油や天然ガスが不足すると、EVよりもガソリン車の運転に支障をきたす可能性が高いことは間違いないようだ。ただ、化石燃料を原子力に置き換えた場合、逆の事態となる可能性もないわけではない。

このため、文書はあくまで草案であり、将来のシナリオというよりは、単にスイスの警戒心を表現したものに過ぎないかもしれない。むしろ、ロシアの独裁とウクライナでの残虐行為を可能にしたロシアからの石油と天然ガスの購入・使用を止めることが、欧州にとっていかに重要であるかを示している。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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