京都かつグローバル。コラボの技冴えるアートフェアACKとは

Photo by Nobutada Omote


会場の通路や空間には、ゲストキュレーターとして招かれたジャム・アクザール氏がセレクトした作品も展示されている。2021年に「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」に選出されたサウンドアーティスト細井美裕の作品もその一つだ。

細井の作品はブースとブースの間の細い路地に展示された。黒い平面に見える作品の裏には60ものスピーカーが隠されている。作品の前を通りかかって音に気づき、歩みを止めて音に聴き入る人、歩きながら音の変化を確認する人など、楽しみ方は人それぞれだ。


通り過ぎながら目と耳で楽しむ細井美裕の作品(Courtesy of ACK)

「目立たない場所かもしれないが、サウンドの作品にとってはポジティブな場所。持ち運び可能な平面のパッケージにしてみたり、空間を囲い切らないことで自由な聴き方を可能にしたり、自分の中での宿題を試すことができた。国際的なアートフェアであるACKがこうした実験的な作品も機会を提供してくれていることが嬉しい」(細井)

非公開の重要文化財がサテライト会場に


歴史的建造物や町並みなど、京都の文化資産に触れながらアートを楽しめるのもACKの魅力だ。

サテライト会場となる本願寺伝道院は、日頃は非公開の重要文化財。レンガ壁やドームなど多国籍な雰囲気を持ち、歴史の積み重ねを感じる建物では、キュレトリアルテーマ「時間の花」のもと、9組の現代アーティストの作品が展示された。


本願寺伝道院の外観(左) 佐々木類《忘れじの庭:ぽつりと咲いた最後の百合》(右)

ユージーン・スタジオ/寒川裕人による《想像 #1 man》では、鑑賞者はたった一人、真っ暗闇の部屋の中を歩いて進んでいかなくてはならない。携帯電話はもちろんアクセサリーや時計など光る可能性のあるものは全て外す。外界を意識させる物は置いて身一つで真っ暗闇の中を進む先にあるのは、作者ですらも見たことがない人物彫像だ。

「暗闇の中で制作した作品は、作者である自分ですら見たことがなく、今後誰も永遠に見ることができない彫像。鑑賞者がどんな像を想像するかは、鑑賞者自身の人生の体験によってまったく違うものになるはず」(寒川)

真っ暗闇の中、指先や手のひらの感覚だけを頼りに鑑賞することで、作品の感じ方は鑑賞する人の内側にあることを強く再確認させる体験だ。作品に関する事前情報に頼らず、体内の感覚を覚醒させることもアートの楽しみ方の一つといえる。
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文=鶴岡優子

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