椿:みんながわかるものは、僕は苦手(笑)。若いとき、ラホヤ美術館の個展で評議員の女性に教わったんですが、彼女はジャコメッティから灰皿をプレゼントされて、それを鴨川で拾った石と並べて置いてあるんですよ。つまり、彼女にとってふたつは等価なのだと。
小山:それが本当のインテリジェンスというものか……。
椿:そう、結局、身分社会、貴族社会なんです。僕ら東洋人は絶対に入れない。ただ、真剣に仕事をすれば、彼らも心を許してくれる。以前、イギリスでアートの仕事をしたとき、スコットランド人の伯爵が最後に「君にあげたいものがある」と。超名門のクリケットクラブのメンバーしか着られないTシャツでした。
小山:最初に椿さんが話された「信用」を、その貴族から得られたわけですね。
椿:ええ。欧米は、信用、信頼が生まれない限り、差別する社会です。日本もきちんと違いがあることを明示しないといけない。僕、格差は差別ではないと思うんですよ。差は絶対にある。レストランでさえ、そうでしょう。それをお互いに認め合わないとスタートすらできない。それを変に「平等」とか「公平」という言葉でごまかしてはいけないんです。(次号に続く)
今月の一皿
会員制高級紳士餃子レストラン「蔓餃苑」の餃子を再現。「餃子にはアート性がある」という話でふたりは盛り上がった。
blank
都内某所、50人限定の会員制ビストロ「blank」。筆者にとっては「緩いジェントルマンズクラブ」のような、気が置けない仲間と集まる秘密基地。
小山薫堂◎1964年、熊本県生まれ。京都芸術大学副学長。放送作家・脚本家として『世界遺産』『料理の鉄人』『おくりびと』などを手がける。熊本県や京都市など地方創生の企画にも携わり、2025年大阪・関西万博ではテーマ事業プロデューサーを務める。
椿 昇◎1953年、京都府生まれ。現代美術家。京都芸術大学教授、東京芸術大学油画客員教授。93年、ヴェネツィア・ビエンナーレに参加。2018年「ARTIST’S FAIR KYOTO」を創設、現代アートの新たなるプラットフォーム育成に注力している。